オバマ大統領は2月18日に、住宅ローンの返済負担を緩和するため、金融安定化法案に基づく750億ドルを投入すると発表した。私はこの施策がどれ程有効に機能するかどうかが、米国経済が立ち直るかどうかの試金石であるとみている。そして米国経済に大きく依存する日本経済の立ち直りのベルウエザーであるとみている。投資の観点からいうと、今回の施策が成功すれば、米国株相場のターニング・ポイントになると考えている。
今回の施策が成功するかどうか?を分析する上で重要な点は「住宅価格がローン残高を下回っている状態~ネガティブ・エクイティという~の、債務者が返済条件が緩和されたなら、ローン返済を続けるかどうか」という点にかかっている。
米国はノン・リコース・ローンの発達した国であるが、住宅ローン契約には一般にノン・リコース条項はない(例外はあるかもしれないが)。しかしながら実務的には「住宅ローン債務不履行の結果、債権者に住宅を引き渡した債務者に対し、債権者は残債務を請求できない」といわれている(訴訟費用や手続が大変であると一般に説明されている)。これは一種の商慣行に基づく経済的インセンティブの問題と考えるべきで、ネガティブ・エクイティの状態に陥った米国の住宅ローン債務者が住宅を放棄して残債務の弁済を免れる行動に出ても、それを日本基準でモラルが低いなどと判断するべきではないと私は考えている。
ネガティブ・エクイティの状態に陥った債務者が住宅ローンの支払を続けるかどうかについては、米国の学者の意見は二分しているとエコノミスト誌はいう。
「払い続ける」派は、「ネガティブ・エクイティになっても、返済可能であればローンの支払を継続する。何故ならデフォルトは個人の信用レコードを傷つけるからだ」という。この学派が根拠としているのは1988年から93年にかけてマサチューセッツ州で住宅価格が23%下落した時、ネガティブ・エクイティになった債務者の内、債務不履行で競売された人は6.3%に過ぎないというものだ。
「払わずに住宅放棄」派は、「ネガティブ・エクイティになった場合、債務者はローン返済可能であっても、返済をやめて自宅を放棄する強い経済的動機を持っている」と主張する。この学派は過去3年間でネガティブ・エクイティになった人の2割は自宅を放棄していることを根拠としている。
私見を加えるならば、過去3年間にローン支払をやめて住宅を差し押さえられた債務者はサブプライム・ローンの借り手等より信用力が低くかつ収入を失った人が多いと考えられる。
住宅の差し押さえを抑制するには、ローン元本を削減する必要があるという声は多いようだ。しかしネガティブ・エクイティになった住宅ローンの元本を削減するような措置を取ると「返済能力がある人でも元本削減を求める」とか「住宅ローン債権への投資家が訴訟を起こす」といった問題が起きる。全米でネガティブ・エクイティ(つまり担保割れ)の総額は、5千億ドルにのぼるので、政府としても簡単に吸収できる金額ではない。以上のようなことを考えると、オバマ政権が「払い続ける」派の意見に沿って、住宅ローンの救済策を打ち出したのは妥当な判断だろうと私は考えている。
ブッシュ政権時に支払遅延のサブプライムローンの借り手24万人を救済する計画を立てたが、実際に救済できたのはたった4千人だった。最大9百万世帯を対象とする新プランに期待がかかるところだ。差し押さえ住宅の競売圧力が緩和しない限り、住宅市場の底値感が出てこないからだ。