金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
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日露関係、隔たりか?進歩か?

2009年02月19日 | 国際・政治

昨日ニューヨーク在住の方から「洞察力の深い記事を拝見している」と過分のお言葉を頂戴した。私自身特段洞察力に優れているとは思わないが、2つのことに気を付けできるだけ幅広いものの見方をしようとは心掛けている。一つは出来事、特に外交的な出来事については日本の新聞記事だけでなく、できるだけ海外メディアの報道にも目を通すようにしていることだ。もう一つはある出来事を単独でとらえるのではなく、大きな流れの中で把握しようと考えていることだ。

さて18日に麻生首相とロシアのメドベージェフ大統領がサハリンで行った会議についてだが、日経新聞は「『領土』打開、日ロ隔たり」という見出しを掲げていた。ところがフィナンシャル・タイムズはRussia and Japan make progress on islandsというタイトルである。つまり「日ロは北方諸島問題で前進した」ということだ。

もっとも二つの新聞の記事の内容に大きな隔たりはない。両紙とも「両首脳は『新たな独創的で型にはまらないアプローチ』で具体化を急ぐ方針で合意した。しかし北方四島に関する主権の主張が縮まることはなかった」と書いている。問題は「合意」に力点を置くか?「主張の隔たり」に力点を置くか?という点だろう。

FTは「日本の政府筋はロシア側が経済問題や支持率低下で苦闘する麻生政権に助け舟を出すべく、新たな情報を示すかもしれないと期待をかけていた」と報じている。もし本当だとすると、日本の政府は相当甘ちゃんである。国と国との交渉事は力と利害の一致をベースとした駆け引きであり、大した見返りもなくロシア政府が北方領土問題で譲歩を行うはずがない。

一方日露関係も世界的な次元で見ると、改善するチャンスにあることは認識しておく必要があるだろう。それはオバマ政権成立後、米ロ関係の改善が進みつつあるからだ。

米国外交評議会(Council on Foreign Relations)のレポートからポイントを紹介しよう。

  • ブッシュ政権時、米国がポーランドとチェコのミサイル防衛基地建設に協力する発表したことからモスクワの緊張が高まった。
  • ロシアのメドベージェフ大統領はオバマが当選した直後、議会で「ポーランドとリトアニアの国境に近いカリニングラッドに短距離ミサイル・イスカンダルを配置するかもしれない」と演説した。短距離ミサイルはNATO側のミサイル防衛網で防御できないので、ポーランドやチェコに脅威となる。
  • ロシア側の発表はオバマ大統領を苦しい立場に追い込んだ。彼は選挙期間中ブッシュ政権のミサイル防衛支援を再考すると述べていたが、ロシアの短距離ミサイル配置を聞いて撤退すると、ロシアの圧力に屈したと思われるからだ。
  • このような状態であったから、米国のバイデン副大統領の「米露関係を再考する」というミュンヘン安全保障会議での発言はロシアに歓迎された。バイデンは「米国はイランのロケット攻撃に対抗する目的でミサイル防衛網を開発する」と延べた。
  • その後モスクワは「ミサイル防衛網を建設しないことに合意すれば、短距離ミサイルの配置を中止する」と述べた。オバマは「ロシアがイランの大陸弾道ミサイルと核爆弾の開発阻止に協力することを条件にミサイル防衛システムの開発を遅らせる」と示唆している。

紹介が長くなったが、今米国とロシアは関係改善に努め、アフガン問題の解決に臨もうとしている。このような大きな流れの中で、日露の首脳の間で「トップダウン」で問題を解決したいという思いが強くなっていることは事実と思われる。

だが具体的に領土問題を解決するのは容易なことではない。それは外交であるとともに内政の問題でもあるからだ。その意味では「領土打開、日ロ隔たり」とした日経新聞の方が現実的かもしれない。

コメント
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