金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

株主自己資本比率6%強が基準か?

2009年02月27日 | 金融

米国のシティGが政府の子会社になったというニュースが少し前に流れていた。脆弱な銀行を一時的に国有化するべきかどうかについては前から議論があったが、今週に入って「国有化やむなし」という意見が大勢を占めてきた。グリーンスパン氏も国有化を支持しているし、今週のエコノミスト誌も「国有化にはリスクがあるが、それでも最善の方法だろう」と強く国有化を主張している。

このような中、米銀に対するストレス・テストが始まる。エコノミスト誌によると、今市場が注目しているのは、Equity Tier 1(普通株主自己資本比率)で、ストレス・テストはこれに焦点をあてるのではないか?と予想している。「エクイティ ティア ワン」とは聞きなれない言葉だが、銀行の中核自己資本から優先株を差し引いた普通株主自己資本をベースに算定した自己資本比率のことで、来週あたりから日本でも有名になるかもしれない。

何故エクイティ・ティア・ワンが注目されているかというと、この比率の低い銀行の株価が低迷するとともに、クレジット・スプレッドが急拡大しているからだ。米銀大手のTier 1比率は注目されているシティグループやバンカメを含めて10%を超えている(唯一の例外はウエルス・ファーゴ)。だがエクイティ・ティア・ワンについて見ると一番充実しているのはゴールドマン・ザックスで10%を超え、次にほぼ10%でモルガン・スタンレーが続いている。下位はUS Bankcorp、シティ、バンカメなどで5%を切っている。エコノミスト誌は堅固なバランスシートを持っていると推測されるJPモルガンや最も安全と思われる欧州の銀行を参考に必要なエクイティ・ティア・ワン比率水準を決めるのではないか?と推定している。JPモルガンのそれは6.4%である。

普通株主自己資本比率が重視される理由は「普通株」が「優先株」よりも、より良いクッションになるからだ。エコノミスト誌は「普通株では配当を止めて、止めっぱなしにできるが、優先株では配当を一時的に遅らせることはできるが、中止することはできない」という例で、普通株のクッション性を説明している。

このエクイティ・ティア・ワンの話、不良債権の償却等が大きくなってくると、邦銀の健全性測定の上でも話題になるかもしれない。

シティGの場合、政府が既に投入している優先株を普通株式に転換することで、エクイティ・ティア・ワンのハードルをクリアする見込みだ。エコノミスト誌は先程の基準を当てはめると米銀大手で1070億ドルの普通株式が必要で、政府は既に1300億ドルの優先株を出資しているので、これを転換するのだろうと報じている。

銀行の国有化は、スタート点でゴールではない。これからやるべきことは多い。だが方向感がでたことは歓迎するべきだ。

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経営計画を作る無意味さ

2009年02月27日 | 社会・経済

自分のブログがどのような人に読まれているか?ということは関心のあるところだが、把握する方法はない。「アクセス解析」ツールを使って、企業や組織のサーバーまでたどりつくことはできるが、その先でどのような職種やポジションの人が閲覧しているかを解析する方法はない。しかし推測するに、経営の中枢層が私のブログを読んでいるとも思われない。ただ今日の話は出来れば経営の中枢やそれをサポートする企画部隊に読んで貰いたい話だ。

少し前に私の会社でも、親会社の意向で5年間!の経営計画を作成した。この先行きの不透明な時期にである。おおよそどこの会社でも同様だと思うが、計画は各部門の予想(予算)をスプレッドシート(エクセルシートなど)に集計する形で作成される。しかしそれは先行きの予想が立つ時代の話であり、世界経済の予想が立たない五里霧中のような状態では、そのようなことに時間を割くことは意味が乏しい。

いや、もっと平常な時代でも予算計画など無駄だという人がいる。例えばGEの経営者として有名だったジャック・ウエルチだ。最近のエコノミスト誌は彼が数年前に書いた本の中の「大部分の会社において、予算作成プロセスは経営にとってもっとも非効率な習慣である」という言葉を引用し、今や多くの企業が彼の意見に同意することは間違いないと述べる。

では経営計画に変る手法はあるのか?という問いに対し、エコノミスト誌は「数少ない将来指向型の会社はシナリオ・アプローチを採用する」と示唆する。例えばデンマークのおもちゃ会社のレゴ(プラスチックのブロックを作っている)は、幾つかのシナリオを作り、そのシナリオに沿ったコンティンジェンシー・プランを準備している。コンティンジェンシー・プランとはIT用語で、システムに障害が発生した時の復旧手順のことだ。つまり問題が発生した時に迅速に対応ができるようにしておく訳だ。

エコノミスト誌によると、レゴでは経営幹部会を開いて、そのその月におきたことを共有するだけでなく、向こう1年間でどのようなことが起きるかについて最善の予想を行っている。

何が起きているか?ということをニア・リアルタイムに把握することに努めている会社は他にもある。例えば米国のネットワーク設備大手のシスコだ。シスコでは経営層が毎日世界中のどの地域、セクションから注文が来ているかを把握し、ビジネス・トレンドを分析するシステムインフラを長年かけて整えてきている。また毎月末に勘定を締めて4時間!以内に信頼できる月次決算データを得ることができる。多くの企業ではこのプロセスに何日も要している。シスコの規模を考えると驚異的な速度というべきだろう。

繰り返しになるが経営計画というものは過去のトレンド等ある前提に立って将来を予想するものだが、前提となるトレンドが見えない場合の予想にどれ程の意味があるのだろうか?

不確実な時代は過去のトレンドやカンに頼ることなく、日々の情報を迅速に集めて、クールに事実を見つめることが肝心と改めて思った次第だ。

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