エジプト騒動の着地点は見えない。最新のロイターニュースは、オバマ政権がエジプト政権とムバラク大統領の即時退任について討議をしていると報じているが、ムバラクの早期退任が米国に良い結果をもたらすかどうかは不透明だ。
エコノミスト誌はThis is the biggest foreign-policy crisis of his presidency so far.と述べている。
最大のリスクはエジプトの新政権の姿がはっきりしないことだ。スレイマン新副大統領が後釜に座ることで落ち着けば、一安心だが別の新政権が国民の人気を得るため、イスラエルにハードポジションをとるとこの地域の力のバランスが崩れるとエコノミスト誌の警鐘を鳴らす。もし米国がエジプトを失うことになるとその影響を計量化することは難しい。ヨルダン、モロッコ、サウジアラビアといった親米国が地すべり的に親イラン的になると、多くの人命と金を投じたイラクでの足掛かりはどうなるのか?という同誌は疑問を投げかける。アルカイーダのナンバーツー・アイマン・アル・ザワーヒリーがエジプト人ということで騒動の裏でアルカイーダが動いていると噂をも聞いたことがある(エコノミスト誌ではない)。
☆ ☆ ☆
ところで少し前に「アラブ圏の政情不安の一つの要因は若者の急増」というレポートがあることを書いたが、今日は「生活に満足できる人の激減がチュニジアとエジプトの騒動と強い相関関係がある」というGallupのレポートを紹介しよう。
エジプトもチュニジアもここ5年間一人当たりGDPは堅実に伸びてきた。2005年のエジプトの一人当たりGDPは4,762ドルで、2010年には6,367ドルに増加した。しかしこの間「生活に満足している」(Thriving)と回答した人は29%から11%に激減している。チュニジアの場合、一人当たりGDPは05年の7,182ドルから10年の9,489ドルに増加しているが、「生活満足度合」は08年の24%(それ以前のデータなし)から、10年の14%に急低下している。
Gallapは一人当たりのGDP増加がどうして生活満足度の向上につながらないどころか逆相関になっているのかと説明はしていない。別途分析してみたいところだが、とりあえず事実をお伝えする。
Gallupの調査によると、アラブ・北アフリカで「生活満足度合」がエジプトやチュニジア並に低い国はモロッコ9%、イエメン12%、イラク13%、パレスチナ14%、アルジェリア20%、レバノン21%だ。
一方満足度が高いのはUAE(55%)、カタール(53%)、クエート(46%)、サウジアラビア(43%)だ。ヨルダン(30%)とバーレーン(27%)が中間だ。
もしGallupの推論が正しいとすると、燎原の火は生活満足度の低い国で、更に拡大する可能性が高い。米国がスレイマン副大統領へ強過ぎる支持を打ち出すと、人々に操り人形という印象を与えかねないリスクがある。まさに米国外交は非常に難しい舵取りを求められる。
米国はエジプトに対し既に年間15億ドルの援助と近代兵器の供与を行なっているが、エコノミスト誌はエジプトとの同盟関係を維持するため、更なる支援を試みるだろうと結んでいた。