金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

日本のデフレは「リヤ王の悲劇」と同根

2011年02月14日 | 社会・経済

2月10日付のエコノミスト誌には幾つか日本に関する記事が出ていた。大相撲の話も紹介したいのだが、こちらは今月の雑誌ネタに使うことにして、今日はデフレ関連の話を紹介したい。

同誌は「日本は輸出大国だが、スイスに対しては赤字だ」と書き出す。何故ならロレックスのような高級時計を輸入しているので貿易収支は赤字。同様にフランスとイタリアに対しても、ボルドーのワインやマスカルポーネ(クリームチーズ)やアルマーニを輸入しているので赤字。

日本では車、電子製品、日常衣料品の値段は下落しているが、ラグジュアリーな商品の値段は落ちていないと同誌は書く(私がネットで見るところでは、ハンティングワールドなど有名ブランド製品もかなり定価割れで売りに出ているが)。

ここで同誌は50万部売れた藻谷浩介氏の「デフレの正体」を紹介して、藻谷氏は「日本ではデフレは通貨政策上の問題よりも、悪いビジネス上の意思決定と人口動態の問題だ」と主張していると述べる。悪いビジネス上の問題とは異常に低いROAでも当該ビジネスから撤退しないような企業行動を指すのだろうが、この記事の主題は人口動態の方になる。

また同誌は日銀の白川総裁が2月7日のカンファレンスで、デフレの基本的な原因は労働者数の減少と生産性の伸びの鈍化で、金融緩和だけでデフレを止めることはできないと主張していたと述べる。

藻谷氏と白川総裁の意見が一致するところは、企業は高齢者の潜在的な消費力を引出すような商品・サービスを提供するべきだという点だ。白川総裁はヘルスケア、介護、ツーリズム、レジャーで需要が拡大していると信じている。彼は過去10年でフィットネスクラブの粗利益が4割拡大したのは、長寿化にともない健康に対する関心が高まったからだと考えていて、規制緩和がこれらの方面の供給を拡大するだろうと述べている。

藻谷氏はもっと厳しい見方を示す。彼は高齢者は「手持ち資金を子ども達に渡し過ぎると子ども達から見放される」と感じる「リヤ王」コンプレックスにかかっているという。

被相続人が長生きすることは、一方で相続人が高齢化することを意味する。藻谷氏は相続人の平均寿命は67歳であるといい、相続税の引き上げにより、高齢者では子どもではなく、孫達に贈与が起きるのではないか?と税制改正を歓迎している。

☆   ☆   ☆

確かに相続人が高齢化すると、使うこともないお金のバトンタッチが繰り返される可能性が高いので、高齢者より孫に資金が移転するような税制改正は「デフレ対策」の点では意味があるかもしれない。

だがこれらの提言には重要なあることが欠けている。つまりお金を使う側、高齢者の視点が欠けているということだ。

人はただ肉体的な健康さを維持するために、ヘルスケアに努めたり、フィットネスクラブに通うのだろうか?お金を出して手取り足取りのツアー旅行に参加するだけで満足が持続するのだろうか?

これは個人的な意見が分かれるところだろうが、私は人には「持続するモチベーション」が必要だと考えている。また「中高年向け」とか「高齢者向け」という商品区分も嫌いだ。

むしろ高齢者あるいはリタイアした人に対して「あなたはまだまだ自己実現できることがあります。〇〇をしましょう」といった企画があれば乗りたいと思っているし、そのような企画を作り出したいとも考えている。

一つ思い出すのは、60歳を過ぎてヨットで単独世界一周を成し遂げたフランシス・チェチェスターの話。約1年の航海を経てプリマスに向かう彼のヨット・ジプシー・モス号を迎えたのは英国民の熱狂的歓迎だった。彼の航海は記録的には目新しいものではない。60歳を過ぎても夢を失わないチェチェスターに人々は激しく共鳴したのである。

僕達が自分の心の中に自分のジプシー・モス号を持つ時、僕はリヤ王のコンプレックスを超えることができると考えている。

コメント (6)
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