昨日(5月20日)のWSJに欧州のマイナス金利依存症問題に関する記事が出ていた。
投稿者はフランクフルト在住の記者なので、日本の話題は出てこない。しかし中央銀行のマイナス金利政策が様々な弊害を引き起こしている点では日欧共通するものがあるから参考になるところは多い。
5年前に革新的でそして短期的な景気浮揚策として導入された欧州諸国中央銀行のマイナス金利政策。景気が回復すれば、正常な金利に戻す予定だったが、まだマイナス金利を脱却した中央銀行はない。
一時的な鎮痛剤として使った劇薬の利用が常態化しているのだ。
理屈の上では、商業銀行が中央銀行に必要以上に預金を置いておくと利息を取られるから、銀行は貸出を促進する。企業は安く資金を調達できるので、設備投資を増やす。また消費者もまたお金を借りて消費を増やすので、景気が上向き物価が上昇してくることになる。
だが実際はそうはなっていない。貸出金利が低下しても、企業の設備投資に慎重な姿勢は変わらないし、安定した職業についていない消費者は銀行ローンを受けることができない。
低金利が持続しているので、収益性の低い会社もなんとか借金の金利を払うことができ、結果としてゾンビ企業が生き続けている。その結果経済全体の生産性が向上しない。欧州委員会は今年のユーロ圏のGDP成長率を1.2%と予想している。半年前の予想では1.9%だったが。
ユーロ圏の25歳以下の若者の失業率は16%で消費を牽引する力はない。
低金利が持続する中で消費者は老後に備えて貯蓄額を増やそうとするから消費は低迷する。
以上が欧州のマイナス金利政策が引き起こしている問題だ。
失業率の点などで日本との違いはあるが、ゾンビ企業が生き残り、人的資本を含めて、資本が最適配分されていない状況は日本も同じようなものだろう。
マイナス金利政策とは異なるが最近MMTと呼ばれる「現代貨幣理論」を唱える人が出始めている。これは「国はいくら借金しても自国の通過で借金できる限り破綻することはない」という主張のようだ。
だが私はこの理論に強い違和感を感じる。国家財政と家計は違うので、必ずしも国は「稼ぎの中で暮らす」必要はないが、野放図に借金して良い訳がない。また預けたお金に利息を取られるというのも常識から考えると奇妙な話だ。
奇抜な理論が常識と整合しない場合、避けるのが賢明というものだろう。保守的過ぎるという批判は承知の上だが。
マイナス金利政策が劇薬依存症を招き、脱却できないスパイラルに陥っていることは常識の重要さを示しているのではないだろうか?