東電や政府が発表する情報が混乱し、ノイズを発生している福島原発の海水注入問題で昨日また新たな情報が発表された。それによると福島原発の吉田所長は、本社の幹部とテレビ会議で注入中断を決めた後、実際には中断せず、注水を続けていたという。なお東電の武藤副社長によると、「原子炉を冷やす(私註冷やし続ける)という判断は妥当だった」ということだ。
この話を聞いて私は「孫子」の「九変」編にある箴言を思い出した。君命有所不受。
「君命も受けざるところあり」君主の命令でも受けられえないところがあるということだ。この一言は次のような文脈にでてくる。「道にはどうしても選ぶことができない道があり、軍には攻撃できない敵があり、城には攻めることができない城があり、相手の所有地には争わない方がよい土地があり、君命にも受けられないものがある」
吉田所長がこの言葉を知っていたかどうかは知らない。だが気持ちとしては「社名か君命(首相)の命令か知らないけれど、現場責任者として注水中止は受けられない」というところだったのではないか?と推測する。
孫子は別の所(謀攻編)で、無知な君主による誤った命令が軍を混乱させることを戒める。「攻撃するべきでないのに攻撃しろと命令する、あるいは撤退するべきでないのに撤退しろと命令する。これを糜軍(びぐん)という。」
糜軍とは軍隊の自由を奪うこと。まさに福島原発で起きたことは糜軍である。現場を知らない人間が場当たり的な指示を出し、現場を混乱させ、最後は責任のなすりあいをする。東電の武藤副社長は「吉田所長の処分を健闘している」そうだが、それであれば、まず自ら辞表を書くべきだろう。