金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

枝野官房長官の市場ルール無視発言

2011年05月13日 | ニュース

今日(5月13日)の記者会見で枝野官房長官が東電の損害賠償への支援スキームに関して「金融機関が東電に対する債権を放棄しないで公的資金を注入することは国民の理解を得られることはない」という考え方を示した。この発言を受けて、金融機関の株には、債権放棄による損失を警戒した売りが出て、東証株価が一時150円程下げた。

官房長官の発言がすぐに実現するとは思わないが、これは資本市場の「損害賠償請求権は金融機関の貸出債権よりの優先順位が低い」というルールを無視したもので、ルール無視に恐怖感を覚える海外投資家の日本市場を敬遠する動きにつながりそうだ。

そもそもこのような契約や市場ルールを無視した発言が起きる背景には、枝野官房長官が「5兆円程度の損害賠償なら電力料金の値上げを行なわなくても実施可能」という現実性のない発言を行なって国民を欺瞞していることがある。

そもそも東電にそんな余力はまったくない。

少し東電の有価証券報告書(連結ベース)を見てみよう。

昨年3月期のバランスシートに載っている現預金1,801億円だ。昨年度の当期純利益は1,337億円(その前の年度は845億円の損失)だ。キャッシュフローベースで見ると、当期純利益に7,594億円の減価償却費などを加えた約9千億円が東電が年間に手にすることができる現金収入だ。だが固定資産投資(発電所の新設・修理など)があるので、余ったお金(営業収入-投資)は4千億円弱。東電はこれを社債の償還や借入金の返済に充てている。

東電の社債と長期借入金は6兆4千億円程あるので、年間4千億円の返済を続けると16年で完済することができる。銀行や社債投資家はこの債務償還年数から東電向け与信の安全度合いを判定している。債務償還年数が長くなると与信の安全性は低くなるので借入や社債発行が困難になる。このように考えると「去年の状態でも東電に損害賠償能力は年間1-2千億円程度(株式配当が808億円なので、これを止めて後1千億円だせるかどうか)というところなのだろう。

これに乗っかってくるのが、原発から火力発電に切り替えることによる燃料代のアップ。

東電の有価証券報告書を使って簡単に試算しよう。単体ベースで見た東電の昨年度の売上高は4兆8,044億円で営業費用は4兆5,545億円、2,500億円の営業利益が出ていた。ところが原発分を全部火力発電に置き換えると営業費用は4兆7,963億円になり、営業利益は81億円になってしまい、経常利益は832億円の赤字になると計算される。

非常に単純な試算なのだけれど「損害賠償がなくても原発が火力発電に変わっただけで東電は大赤字、いずれ電気代の値上げか?」というのは誰でも直ぐ分かることだろう。

いったいどのような計算をすると、こんな美味しい話になるのだろうか?

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中国人はコーチの作り手から買い手に

2011年05月13日 | 社会・経済

バッグ、アクセサリーメーカーのコーチは、中国の製造部門を縮小する一方、販売市場として更に力を入れる計画だ。

FTによると、CEOのFrankfort氏は、向こう5年間に中国への生産依存度を現在の85%から40-50%に削減し、賃金の低いインド、ベトナム、フィリッピン等にシフトする予定だ。

一方販売については、昨年倍増して1億ドルになった中国での売上を2014年までに5億ドルに拡大する計画だ。

因みにコーチの日本での売上高は、651億円(コーチジャパンの昨年6月期の売上高1ドル81円として約8億ドル)。日本市場はコーチ全体の売上の18%を占めている。今のところコーチにとって中国市場は日本の1割強だが、計画どおりに進むと3年後には日本の6割の市場に成長することになる。

コーチが日本に直営店を出したのは1988年の横浜三越店が最初で、現在は174店舗を持っている。中国については香港に9つ、中国大陸に44ケ店を持つ。一店舗辺りの売上高は、今のところ日本に較べてかなり少ないが、今年既に20%も賃金が上昇している中国だから、今後高額商品の伸びが期待できるだろう。

ところで昔アメリカで暮らした経験では、コーチというと男性用の天然皮革のビジネスバッグのイメージが強いが、現在全世界ベースではコーチの売上の15%のみが男性用商品である。

ただしアジアについていうと、25%が男性向け商品で、中国に限ると45%が男性向け商品だ。特にコーチは男性用ハンドバッグ市場を取り込むことに力を入れている。

コーチ全体でも第一四半期売上高は14%増収と好調。これはコーチがハンドバッグの平均価格を10%程下げて、「手頃な高級品」市場を狙ったことが奏功した。

東日本大震災やその後の原発停止等で消費の低迷が長引きそうな日本に比べ、賃金上昇で消費の拡大が見込まれる中国市場。やがてコーチのメッセンジャーバッグを斜めかけして、自転車で走り回る中国人が増えるかもしれない。

それはともかくお隣の中国人が豊かになり、お金持ちらしい商品を身に着けることは良いこと。「金持ち喧嘩せず」というから、彼等が豊かになるとビジネスの観点のみならず、安全保障の面からもプラスは大きいのである。

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