今日(5月13日)の記者会見で枝野官房長官が東電の損害賠償への支援スキームに関して「金融機関が東電に対する債権を放棄しないで公的資金を注入することは国民の理解を得られることはない」という考え方を示した。この発言を受けて、金融機関の株には、債権放棄による損失を警戒した売りが出て、東証株価が一時150円程下げた。
官房長官の発言がすぐに実現するとは思わないが、これは資本市場の「損害賠償請求権は金融機関の貸出債権よりの優先順位が低い」というルールを無視したもので、ルール無視に恐怖感を覚える海外投資家の日本市場を敬遠する動きにつながりそうだ。
そもそもこのような契約や市場ルールを無視した発言が起きる背景には、枝野官房長官が「5兆円程度の損害賠償なら電力料金の値上げを行なわなくても実施可能」という現実性のない発言を行なって国民を欺瞞していることがある。
そもそも東電にそんな余力はまったくない。
少し東電の有価証券報告書(連結ベース)を見てみよう。
昨年3月期のバランスシートに載っている現預金1,801億円だ。昨年度の当期純利益は1,337億円(その前の年度は845億円の損失)だ。キャッシュフローベースで見ると、当期純利益に7,594億円の減価償却費などを加えた約9千億円が東電が年間に手にすることができる現金収入だ。だが固定資産投資(発電所の新設・修理など)があるので、余ったお金(営業収入-投資)は4千億円弱。東電はこれを社債の償還や借入金の返済に充てている。
東電の社債と長期借入金は6兆4千億円程あるので、年間4千億円の返済を続けると16年で完済することができる。銀行や社債投資家はこの債務償還年数から東電向け与信の安全度合いを判定している。債務償還年数が長くなると与信の安全性は低くなるので借入や社債発行が困難になる。このように考えると「去年の状態でも東電に損害賠償能力は年間1-2千億円程度(株式配当が808億円なので、これを止めて後1千億円だせるかどうか)というところなのだろう。
これに乗っかってくるのが、原発から火力発電に切り替えることによる燃料代のアップ。
東電の有価証券報告書を使って簡単に試算しよう。単体ベースで見た東電の昨年度の売上高は4兆8,044億円で営業費用は4兆5,545億円、2,500億円の営業利益が出ていた。ところが原発分を全部火力発電に置き換えると営業費用は4兆7,963億円になり、営業利益は81億円になってしまい、経常利益は832億円の赤字になると計算される。
非常に単純な試算なのだけれど「損害賠償がなくても原発が火力発電に変わっただけで東電は大赤字、いずれ電気代の値上げか?」というのは誰でも直ぐ分かることだろう。
いったいどのような計算をすると、こんな美味しい話になるのだろうか?