雑誌・選択四月号の「続・不養生のすすめ」という記事のサブタイトルは「マユツバ物のメタボ対策」で、筆者の医学博士柴田 博氏が「『虚構の病』メタボリック症候群は、国民の健康と医療を歪める極めて悪質な問題である」と書き出していた。
私は「選択」を購読していないが、同誌を購読している人が回してくれたので、読んだのだが、完全メタボ系のその購読者は「わが意を得たり」とばかり、記事に赤線を引きまくっていた。
だがこの記事はかなり危険な記事なのである。何故危険か?というと米国医学会に存在する二つの異なる意見の一方だけを取り上げ「いかなる国のメタボ検診基準も「症候群」と呼ぶに値する科学的根拠は存在しない」と断じているからだ。
確かに記事が述べるとおり、アメリカ糖尿病学会とヨーロッパ糖尿病学会は「メタボリック症候群という症候群は存在しない」という立場を取っている。しかし米国の心臓病学会は明確にメタボリック症候群は存在するという見解を示しいてる。
実は歴史的に見ると最初に「メタボリック症候群」を提唱したのは、米国糖尿病学会だったが、1990年代後半により力の強い心臓病学会が、お株を奪って「メタボリック症候群」の独自ガイドラインを定め、大々的に宣伝を始めた。そして2005年に糖尿病学会は「メタボリック症候群」は存在しないという声明を出している。メタボ問題は米国の医学界の縄張り争うのような議論なのだ。
従って柴田博士の「マユツバ物のメタボ対策」という記事は、糖尿病学会の意見のみを紹介して、心臓病学会の意見を一顧だにしていない記事ということができる。
柴田博士の記事は自説の「メタボあるいはその予備軍と判定された人に対しては、特定保健指導を行なうことを義務づけた。・・・現実問題としては、指導などしなくても何の支障もないのだ。しょせんは、霞ヶ関で創作された病気に過ぎないのだから。」という部分を強調するため、心臓病学会の見解を紹介しなかったのではないだろうか?
また後半で柴田博士は「メタボという『虚病』を理由に生活習慣病の薬がばら撒かれサプリメントが売りさばかれる。メタボは、カネを生む装置なのだ。・・・医者が足りていない。他にやるべきことがたくさんあるのに、欧米が『根拠なし』と断じたメタボ対策に邁進する必要があるのか。」と述べている。
「メタボを理由に生活習慣病の薬がばら撒かれる」という問題の指摘については賛成であるが、欧米がメタボ対策を根拠なしと断じたかどうかは不明である。
メタボリック症候群の存在を否定する米国糖尿病学会は、メタボチックな人を「前糖尿病」と位置付けているのであり、糖代謝の異常やその原因となりうる内臓肥満が容認されている訳ではない。
その対策として薦められるのが、運動とカロリー過剰にならない食事だ。ただし医者はこれらの指導を行なっても、あまり診療報酬を取ることができない。患者にしても大変な努力を強いられる。従って抗コレステロール剤などが安易に投薬されるのである。
柴田博士の激論の強引さには抵抗を覚えるけれど「どんな薬にも副作用がある。無用な薬は飲まない方が良いに決まっている」というご意見は全く同感である。
薬も自分で判断して飲むべきだし、エライ人の高説も裏をとって判断するべきであるということを教えてくれる記事だった。