政府は今日(5月17日)、当初6月としていた環太平洋経済連携協定(TPP)への参加交渉判断時期を先送りした。案件山積みだし、TPP参加可否の議論は生煮えだし、先送りの判断自体は妥当なのではないだろうか?
ところでTPP参加反対・賛成の意見を見ると、TPPに参加すると日本の農業は壊滅するとか、参加しないと日本のGDPが2020年時点で10兆円減少するとかこれは「平成の開国」だなどとややエキセントリックが議論が先行している感じを受ける。
TPP参加国(ニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイ)と参加表明国(米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシア)の9カ国の内、日本は既にチリ、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ペルーとFTA(自由貿易協定)を締結しているので、TPPへの参加は実質的には米国とオーストラリアとの自由貿易協定を結ぶかどうかという話である。
農産物については、「味の好み」とか「食習慣」というものがあり、米などの関税が廃止されたとしても、輸入米が一気に席巻するとも思われない。また米韓FTAにより将来韓国製品に較べて日本製品が関税分だけ不利になるとしても、米国の乗用車に対する関税は2.5%、電気・電子製品に対する関税は1.7%と低いので、対米輸出において関税がそれ程大きな障壁になっている訳ではない。つまりGDPが10兆円減るという経済産業省の主張も精査する必要がある。
一方TPP参加に関して見落としてはならないのが、実は関税以外の問題なのだ。例えば「原産地規制」、「衛生植物検疫措置協定」、「政府調達」、医師、弁護士などの資格の共通化による専門職の流入などなど色々な問題が控えている。
これらの問題についてそれぞれの業界の立場、消費者の立場で色々な意見が交差しているので、中々全体的な星取表が見えないのが現状なのだ。
ところで興味深いことは、TPPの旗を振っている米国の世論を見ると意外なことだが、NAFTAのような自由貿易協定に対する反対意見が増えてきている。
PewResearchが昨年11月に発表したデータによると、2010年10月時点でFTAが米国にとって良いと判断した人は35%で前年の43%より8ポイント減少して、過去13年で最低レベルだった。一方悪いと判断する人は12ポイント増えて44%に達している。また個人の経済面ではFTAに助けられたと考える人が26%なのに対して、傷付けられたと考える人が46%だった。
誰が米国でTPPの旗を振っているか?ということを見ると彼等の意図が見え、日本にとってのメリット・ディメリットが見えてくるのだが、それはまた別の機会に。
それにしてもTPPの旗を振っている米国が、議会で批准されないことがあるかもしれない・・・と思わせる数字だった。