金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

TPP雑感

2011年05月17日 | ニュース

政府は今日(5月17日)、当初6月としていた環太平洋経済連携協定(TPP)への参加交渉判断時期を先送りした。案件山積みだし、TPP参加可否の議論は生煮えだし、先送りの判断自体は妥当なのではないだろうか?

ところでTPP参加反対・賛成の意見を見ると、TPPに参加すると日本の農業は壊滅するとか、参加しないと日本のGDPが2020年時点で10兆円減少するとかこれは「平成の開国」だなどとややエキセントリックが議論が先行している感じを受ける。

TPP参加国(ニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイ)と参加表明国(米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシア)の9カ国の内、日本は既にチリ、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ペルーとFTA(自由貿易協定)を締結しているので、TPPへの参加は実質的には米国とオーストラリアとの自由貿易協定を結ぶかどうかという話である。

農産物については、「味の好み」とか「食習慣」というものがあり、米などの関税が廃止されたとしても、輸入米が一気に席巻するとも思われない。また米韓FTAにより将来韓国製品に較べて日本製品が関税分だけ不利になるとしても、米国の乗用車に対する関税は2.5%、電気・電子製品に対する関税は1.7%と低いので、対米輸出において関税がそれ程大きな障壁になっている訳ではない。つまりGDPが10兆円減るという経済産業省の主張も精査する必要がある。

一方TPP参加に関して見落としてはならないのが、実は関税以外の問題なのだ。例えば「原産地規制」、「衛生植物検疫措置協定」、「政府調達」、医師、弁護士などの資格の共通化による専門職の流入などなど色々な問題が控えている。

これらの問題についてそれぞれの業界の立場、消費者の立場で色々な意見が交差しているので、中々全体的な星取表が見えないのが現状なのだ。

ところで興味深いことは、TPPの旗を振っている米国の世論を見ると意外なことだが、NAFTAのような自由貿易協定に対する反対意見が増えてきている。

PewResearchが昨年11月に発表したデータによると、2010年10月時点でFTAが米国にとって良いと判断した人は35%で前年の43%より8ポイント減少して、過去13年で最低レベルだった。一方悪いと判断する人は12ポイント増えて44%に達している。また個人の経済面ではFTAに助けられたと考える人が26%なのに対して、傷付けられたと考える人が46%だった。

誰が米国でTPPの旗を振っているか?ということを見ると彼等の意図が見え、日本にとってのメリット・ディメリットが見えてくるのだが、それはまた別の機会に。

それにしてもTPPの旗を振っている米国が、議会で批准されないことがあるかもしれない・・・と思わせる数字だった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日米英で社債発行が増加、その背景は?

2011年05月17日 | 投資

最近の新聞記事を見ていると、日米英で社債の発行が増えている。日本に関する記事は今日(5月17日)の一面の「社債発行が本格再開」。記事によると三菱商事は4-5百億円の10年債を発行する予定で今日条件を決める予定だ。他にNTTや東海旅客鉄道なども起債を準備している。

東日本大震災以降、原発事故の影響で社債の代表銘柄の東電債の利回りが跳ね上がり、他の銘柄にも金利上昇圧力がかかっていたが、「運用難に悩む機関投資家の潜在需要が強く」、対国債スプレッドは低下して、企業側に社債発行メリットが出てきた。

英国でも社債市場が復活している。今年のスターリング建の社債発行額は、前年同期比倍の147億ドル相当、09年の367億ドルには見劣りするものの、活況を呈しつつある。スターリング建社債が発行企業にとって魅力的な理由の一つは償還期限の長さだ。Place for Peopleという住宅協会は、今週月曜日に20年債の発行サイズを1.5億ポンドから1.75億ポンドに増額した。また世界で唯一AAA格を取得いている民間銀行のドイツのラボバンクがスターリング建30年債4億ポンドのプライシングをした。

英国の債券市場が活況を呈しているもう一つの理由は、英国政府の財政緊縮策が市場で評価され、英国債とドイツ国債のベンチマーク10年の利回格差が0.2%まで縮小していることだ。また投資適格社債市場が活発化するにつれて、低格付高利回り社債の発行も活発化している。英国や欧州では銀行が、高リスク先への融資を敬遠しているので、債券市場が埋め合わせをしている。

米国では、グーグルが初めて社債を発行することが話題になっている。グーグルは3年、5年、10年のトランシェで30億ドルの資金調達を計画している。長期金利が低下している有利な発行環境を活かし、コマーシャルペーパーを償還する予定だ。

グーグルが手元資金を厚くする理由は、買収資金を確保するという意味もある。3月末現在グーグルは全体として、367億ドルの現金を持っているが、その内169億ドルは海外にある資金。この資金を米国内に持ち込むと大きな税金がかかるので、米国内の買収資金は米国で調達するという考えだ。

このように見てくると日米英で発行者サイドの事情には、多少の差異はあるものの、ベース(国債)金利の低下と対国債スプレッドの低下という有利な発行環境を利用しようという考えが高まっている。

一方投資家サイドから見ると、リスク回避と低金利が持続するという予感が社債へのシフトを促している。今日の日経「一目均衡」は、「低リターン時代に備える」という米国ニュージャージー州の年金基金の運用戦略を紹介していた。その中に出ていたキーワードが「金融抑制」(ファイナンシャル・リプレッション)だ。それは何かというと「銀行や年金も自己資本規制や安定運用の下で、国債の引き受け手として組み込まれ、それ以外の収益機会を削られる」ということだ。その中での一つの投資家の抵抗が少しでも利回りが高い社債へのシフトだ。このような文脈で見た場合、私は当面先進国の株式市場が活況を呈する可能性は少ないと考えている。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする