梅雨だからしかたないけれど、ずっとお天気が良くなくて、お日さまの顔を10日ばかり見ていません。せっかく色づいてきたトマトもこれでは味がねえ……。おまけにナメクジが這い寄ってきて皮を齧ったりしています。
今日の食後の演芸は、9代目桂文治「岸さん」。
10代目の文治師匠はすぐに顔が思い浮かぶのですが、先代は覚えがないのです。ラジオで聴いたことがあったのか、どうか。
この「岸さん」は、漫談風の創作落語。
「落語を聴くと、スーッと楽になります」などと落語の効用を謳ったり、「トイレット」「テロ」「プロレタリアート」などといった新しい(?)言葉遣いを皮肉ったりして、短いくすぐりで繋いでゆきます。その感覚がどうにも時代離れしている。
談志師匠によると、「忘れちゃいやよ」なんて最近の歌を聞いてごらんなさい、などと言ってるけれど、その「最近の歌」が渡辺はま子のデビュー曲。他には、若い頃の淡谷のり子の曲とか。そんなのを引っ張ってくることを、亡くなる昭和40年代までやっていたそうです。アナクロで意味がわからないけれど、妙に可笑しかったといいます。
確かに、聴いててなんだかわからないままに可笑しい。客席も沸いています。座のとりもちが上手かったんでしょうかねえ。語りかける口調が親しげで、話はわかりやすい。それでいて、ひょいひょいと筋を外してゆく。
落語のタイトルの「岸さん」とは、岸信介元首相のこと。右翼に腿を刺された事件がありましたが、その時、捕まった犯人は正当防衛を主張したそうです。武器をもたない岸元首相に対してそれはおかしいと、文治師匠は言っておいて、「しかし、岸さんには、あの目があった」と下げています。
録音ではわからないのですが、どうやら高座でギョロ目を剥いて見せるらしい。写真を見てみると、9代目は岸信介氏にかなり似ているのです。
〈ナンクロ〉8月号が発売になっています。担当の新刊紹介欄で次の3冊を取り上げました――
- 佐野洋子『私の息子はサルだった』(新潮社)
- 立川談志『〔CDブック〕東横落語会 立川談志』(小学館)
- 最相葉月『ナグネ 中国朝鮮族の友と日本』(岩波新書)
佐野洋子さんのは、遺品を整理していて出てきた原稿なんだそうです。絶品。