金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

日本の金利引き上げの影響

2006年04月28日 | 金融

エコノミスト誌は今週「日本が正常な金融政策に戻ることは、銀行、消費者金融や保険会社にどの様なことを意味するのか?」という記事を書いた。エコノミスト誌の日本の経済・金融に関する予測は、内外の数多の経済誌の中で卓抜した先見性を示してる。少し古いところでは、エコノミスト誌が90年代後半に発表した「長期信用銀行の使命が終わった」という記事が、旧興銀を合併に走らせ、旧長銀・日債銀の破綻を加速させたとも言える。新しいところでは、日経平均がバブル崩壊後最安値を付けた03年春頃に日本経済の復活を予告した。予想が外れていた例では、米ドル安予測があるが、4月に入ってからドル安が進んでいるのでエコノミスト誌の執筆者もほっとしているだろう。今回の記事のポイントは、日本経済が回復過程で、銀行や借り手が経済合理性に基ずく融資判断を行ってきたかどうかの試金石になると結論付けている。昨今金融庁の銀行検査における資産査定も厳しくなっていると聞くことが多い。金融機関は今後益々与信ポートフォリオを査定する時、統計的・合理的なルールに基づいて作業を行う必要があるということだ。さて同誌のポイントを意訳してみる。

  • 日銀は多分今年の夏に金利を引き上げる。多くの予測者は、年末までに0.5%、2007年の何処かの時点で1%に金利が上昇すると考えている。日銀の政策委員の中には来年は2%は必要と考える者もいるが、他の者はこれは日本経済の回復を壊してしまうと恐れる。
  • 金融市場は予想していたよりも強く、日銀の政策変更に反応した。10年物国債利回りは6年振りに2%を付けた。政策変更は海外にも影響を及ぼし、安い金利の円を借りて高い通貨の資産に投資する「キャリートレード」の解消が起こり、その結果ニュージーランド・ドルの様に傷つきやすい通貨は不安定になった。
  • 金利が上昇することの銀行についての影響はプラスである。預金金利は貸出金利が市場金利に連動して上昇するのに比べて、上昇速度が遅いからである。日本の巨大な保険会社も10年に亘ったひどい時代の後で喜ばしい時期を向かえている。これは運用と保証利回りの逆ザヤが解消し始めたからである。証券会社もハッピーな仲間である。証券会社は借り入れが多く、金利上昇の悪影響を受けるが、一方信用取引と債券取引から利益を上げることができるからである。
  • 一番損をするのは消費者金融会社である。消費者金融会社は、債券発行か銀行借入で資金調達を行っているが、両者ともコストが上がっていくだろう。準大手以下の会社は既に激烈な競争とオペレーティングコストの上昇に苦しんでいる。更に与謝野金融相は、グレーゾーンの金利を廃止し、15-20%の利息制限法の上限に一本化する提案を行っている。
  • しかしこれらの金融機関の健康状態は、その顧客の幸福状態更には日本の経済状態全体に関わっている。一般的に日本の企業は元気に見えるが、実は多くの会社、特に事業を合理化できず債務を削減できなかった会社は全く健全ではない。
  • 野村金融経済リサーチセンターが集めた日本の金利負担が多い100社リストには、金利上昇で傷つき易い会社という名前が付いている。ダイエー、日本航空、三洋電機、楽天、ソフトバンクを含む幾つかの大会社は利益を上げ、債務を削減することに苦闘している。過密で利益の出ない建設、鉄道、リースでは繰り返し問題が起きている。もし債務者が苦戦するなら債権者(銀行や保険会社)もまた被害を受けるのである。
  • 経済の4分の3を構成する中小企業は、大企業に比べて、デッド・エクイティ・レシオがほぼ2倍高く、金利上昇で傷つき易い。破産は過去数年間減少していたが、再び緩やかな上昇に向かっていると帝国データバンクは言う。更に帝国データバンクは、政府は既に中小企業向け支援に40兆円の資金を投入していると言う。これは弱小企業の破綻を1,2年先延ばししているはずだが、その次何が起こるか誰も明確に分っていない。
  • しかし最大の問題は「日本がどの様に新しい時代の金融秩序・規律に適応するかだ」と格付機関・三国事務所の三国社長が言う。金利が上昇すれば、企業は各種のプロジェクトについてより厳しく考える必要がある。銀行は今までの日本風にやり方ではなく、信用リスクに基づいてローンを評価する必要があるだろう。
  • 日銀が金融システムに流動性を供与していた限り、その資金はゾンビ企業を生き延びさせるために使われてきた。金融規律の欠如は量的緩和のはるか前からあった。バブル時に日本の企業とその債務者達は、不動産価格は永久に上がり続けるという錯覚の下で暮らしていた。
  • 今不動産投資信託と特化型のプライベート・エクイティ・ファンドは、多額の借り入れを使いながら、東京・大阪・名古屋の富裕地区の物件を買うのに争っている。これらのの借り手は~数百の建設業者や開発業者という訳ではないにしろ~リスクは高い。
  • 日本がより高い金利に戻る事は日本経済が健全化ししている兆候として理解されるべきである。どの程度日本経済が堅実に回復しているかということは、金融機関とその顧客が良識に基づいてお金の貸し借りを行っているかに関わっている。金利の上昇は学習効果が出ているかどうかの試金石になるだろう。

今回エコノミスト誌が言っていることについては、相当範囲で正しいと思う。金利の上昇は、財務的基盤の弱い会社に取って厳しい時代であることは間違いない。疾風に勁草を知る時代ということだ。今回の金利上昇は将来生き残ることが出来る会社を選択するリトマス試験紙と考えて置いた方が良さそうだ。

コメント
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