金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

どうして日本は金融でアメリカに勝てないのか?(1)

2006年04月13日 | 金融

どうして日本が金融でアメリカに勝てないのか?」というテーマはいつか本格的に取りまとめてみたいテーマである。しかしこれは極めて幅の広いテーマである。まず金融という言葉がカバーする範囲が広い。曰く商業銀行、証券会社、投信投資顧問等の資産運用会社、保険会社、消費者金融、リース・・・・これらの中にはアメリカ等外国勢にボロ負けというセクターもあれば、それ程外資系金融機関と競合せず、従ってそれ程負けていると自覚していないセクターもあるだろう。しかし負けていないセクターは幾つかの理由で外資が積極的に攻め込んでいないだけかもしれない。例えば「市場が小さい」「収益性が低い」「極めてローカルな取引慣行が存在する」等。

私はアメリカ勢等外資系金融機関を賞賛するつもりもなければ、日本の金融機関にアメリカ化しろというつもりもない。しかし世界第2位のGDPを誇るこの国の金融取引にかかわる大きな収益が外資系金融機関に移転することには歯がゆい思いを持っている。勝てないことを悔しがっているだけでは何も生まれてこない。何故勝てないのか?ということを冷静に見つめることが大切である。孫子の言う「敵を知り己を知れば百戦危うからず」だ。

という訳で自分なりに「何故日本は金融でアメリカに勝てないのか?」ということを考えてきたが、まとまった結論を述べる前に又大きな金融取引上の収益が外資のフトコロに転がり込む機会を見てしまった。今日はまずその話をしよう。

それは今日のウオール・ストリート・ジャーナルに出ていた記事で「預金保険機構が保有する大手銀行の株式の売り出しで投資銀行が大儲けするだろう」という記事だ。まずポイントを見よう。

  • 政府が保有する大手銀行の株式売り出しに関して、東京の投資銀行の間で金儲けが出来てかつ名声のあがる主幹事獲得競争が過熱している。月曜日が東京三菱UFJと三井トラストホールディングスの株式売り出しにかかわるプロポーザルの提出期限である。
  • 計画されている売り出し額は東菱分が数千億円で、三井分が約1,400億円だ。引き受けコミッションはアナリストの予想では売り出し総額の5-9%である。(三井分だけでも70億円~126億円だ!)
  • この様に目立ったディールで主幹事を取ることは、日本における今後の引受活動を助けるだろう。日本の3大大手行は2007年3月までに公的資金を完済し、完全な経営の独立性を回復することを目指している。このことは証券会社=投資銀行に政府保有の銀行株の売り出しや銀行の新株発行に関して更なるビジネスチャンスを与えることになり得る。
  • 日本の企業セクターは最近企業買収、設備投資やその他の成長機会~特に政府が保有する株式の売り出し等にかかわる~のため、株式市場を利用することにますます関心を高めている。
  • トムソン・ファイナンシャルによれば、今年の3ヶ月間で日本企業は202億ドル相当の株式発行を行なった。これは前年度比69%の増加である。投資銀行は景気が強くなり、企業が攻撃的な動きを取るので新株発行が増加するだろうと見ている。
  • 銀行株を保有する預金保険機構は月曜日にプロポーザルを受取る予定だが、その後1ヶ月程度の間で、東菱と三井トラストの売り出しの主幹事を決定すると予測される。預金保険機構は、投資銀行(証券会社)の提案とトラックレコードを審査し「総合的な見地」から主幹事を選択すると言う。主幹事がスムーズで効率的な売り出しをする限り、外資系証券会社であれ、国内証券会社であれどちらでも良いということだ。
  • 因みに前回預金保険機構が横浜銀行の政府保有優先株550億円を2004年売り出した時はメリルリンチと日興シティが共同主幹事を獲得した。

以上が記事の概要だ。政府は銀行救済のために10兆円以上の公的資金を投入したが、政府保有の優先株等を市場売却し資金回収をすれば、漸く一連の不良債権処理問題は決着する。しかしこの過程で実に多くの収益が日本から外資に流れた。

ざっと思いつくだけでも

  • 不良債権や担保不動産を極めて安い価格で購入し、それを再生して大きな利益をあげた。
  • 国有化された銀行を買取り、再上場して巨額の利益をあげた。
  • 銀行にジャパンプレミアム付で資金(特に外貨資金)を貸し付けた
  • 銀行等に劣後ローンを高い金利で提供した。
  • 高い格付を利用して、保険分野等で多いにシェアを伸ばした。

そして仕上げがこの政府保有株売り出しの主幹事である。一体どれ程の利益が日本から外資系金融機関に移転したか簡単には見積もることが出来ない。

日本が発展途上国の様に資金不足であれば、豊富な資金を持つ外国資本がビジネスチャンスを得たことは納得できる。日本には豊富な資金はあったが、その資金を活用する術がなかったと言わざるを得ないのである。

別の言い方をすれべ、必要な資金とは銀行の口座に入っている金銭の残高ではなく「利益を獲得するために取るリスクと時間を持った資金」ということになる。

つまりリスクテイクする資金を集約し、活用する術が日本になかったということになる。次に機会があれば、このあたりを出発点に考察を進めたいものである。

なお余談ではあるが、一般的に考えると発行株数が増加すると一株当たりの純利益は少なくなる。これを希釈化dilutionと言い、PERが変わらなければ株価の引下げ要因になる。しかし銀行の公的資金返済は経営の自由度回復という面ではプラスがあるので、株価にどの様な影響があるかは慎重に検討する必要があるだろう。

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