金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
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どうして日本は金融でアメリカに勝てないのか?(3)

2006年04月18日 | 金融

前回「恥の文化」の中に、日本人が金融でアメリカに勝てない理由の一つがあると書いた。この延長でもう少しものを考えてみたい。「菊と刀」の中に「(日本人は)地図に示されている道をたどる時にのみ安全であった」という記述がある。この地図とは道路地図等具体的な地図ではなく、行動パターン等の意味である。つまり具体的な規範があると、日本人は強いが未知の環境に遭遇すると一般的に弱いという傾向があることを「菊と刀」は示唆しているといえる。

しかし近代近代日本史の中には何人かの例外がいた。例えば日露戦争の日本海海戦においてロシアのバルチック艦隊を撃滅する作戦を立てた秋山 真之がそうである。彼は古今の戦史を学び、実際に海戦(米西戦争のサンチャゴ海戦)を見て、研究を重ね日本海軍の戦略・戦術の基礎を作った。秋山 真之を更に有名にしているのが、日露戦争後に連合艦隊を解散する時の連合艦隊解散ノ辞である。この文章は世界各国で翻訳されたが、中でも感動した米国のセオドア・ルーズベルト大統領はそのコピーを全軍に配布したという。

ところでその後の日本陸海軍は秋山が起草したこの連合艦隊解散ノ辞の根底にある思想を正しく理解し、実践に活かしたのだろうか?というと残念ながら全く活かせなかったと思う。特に解散ノ辞の中で私が活かすべきを活かしていないと思う箇所を二箇所あげる。

  • 而して武力なる物は艦船兵器等のみにあらずして、之を活用する無形の実力にあり、百発百中の一砲能く百発一中の敵砲百門に対抗し得るを覚らば、我等軍人は主として武力を形而上に求めざるべからず

  • 神明は唯平素の鍛錬に力(つと)め戦はずして既に勝てる者に勝利の榮冠を授くると同時に、一勝に満足し治平に安んずる者より直に之を褫(うば)ふ。

前の文章のポイントは「軍人は武力というものを形而上的なもの、つまり兵器を活用する無形の実力に求める必要がある」ということだ。この無形の実力ということを解説すると長くなる。それはこの記事の目的ではないので、極簡単にいうと国家体制とか軍の作戦指導力といったものが含まれる。しかし恐らく戦前の日本陸海軍の幹部は「無形の実力」の一語より「百発百中の一砲」の方に力点をおいてしまったのではないだろうか?つまり日本軍は兵器の数は少なくても訓練で命中精度を上げると勝てる・・・という具合に。

後の文章は孫子の「勝兵は先ず勝ちてしかる後に戦いを求め敗兵は先ず戦いてしかる後に勝ちを求む」(軍形編)に通じるものだ。これはへぼの将棋で自分の王様が詰められてから考える様なものである。もっとも「考えるなら詰められる前に考えれば良いのに。」というのは上手い人ならではの話だが。

話が大分脇道にそれてしまったが、要は「既成の地図」を元に行動することが得意な日本人は一般論として先例や体験から原理・原則を抽出して実際に役に立つ行動原理を作り出すのが不得意だった。(秋山 真之は例外的に新しい行動原理を作り出す能力があったので、日本海海戦で勝てる戦略を立てることができたと言える。)

また日本人は敵と己の実力を冷静に判断して、政略的・戦略的な行動を取ることがアメリカ人に較べて一般に不得意であるということは、第二次大戦を通じて明らかになったところだろう。

この根本的な行動特性が金融という世界で日本がアメリカに勝てない理由の一つになっているというのが、今日の結論である。

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