金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

中国投資の次は?

2007年01月12日 | 株式

昨日(1月11日)元が香港ドルより高くなった。これは1994年の通貨システム修復以来のことで、中国経済の上昇を象徴する出来事のようだ。11日上海での取引は元が対米ドル7.7945で香港ドルは7.7964だった。香港ドルは1香港ドル=7.80米ドル(7.75から7.85のバンド)にペグされている。元は約8.28ドルの水準に数年間留まっていたが05年から上昇して現在の水準に至っている。投機筋の中には香港ドルが米ドルとのペグを止めて元とリンクするのではないか?と考えている人もいるそうだが、当局は否定している。

ところでこの一見好調な中国経済だが、専門家の眼にはリスクも見えるらしい。最近のエコノミスト誌はそのリスクについて「中国は世界の工場になったことで自分の首を絞めている」という記事を書いている。それは幾つかの世界的な企業が新しい工場建設を中国以外のアジア諸国で始めたからだ。それには幾つかの理由がある。まずコストだ。福利厚生費込みの工場労働者の人件費は上海で月約350ドル、深センで250ドルだが、マニラでは200ドル以下、バンコクでは150ドル、インドネシアのバタムでは100ドル少々である。もはや中国沿岸部は労働コストだけでは競争力を失いつつあるのだろう。もっとも中国の生産性も向上しているのでコスト高が相殺される面も多いだろうが。

しかしコストだけが問題ではない。日本貿易振興機構は「ビジネスリスクと労働コストの上昇問題があるので中国プラスワン戦略取るべきだ」と昨年の調査レポートで述べている。中国のリスクは政治リスクに加えて欧米での保護主義の台頭が貿易の制限につながることもある。そこでプラスワン戦略だがこれは中国で工場を増やすよりは例えばアセアン諸国のどこかに工場を作る戦略だ。

ユニクロは昨年中国での衣料品生産の比率を90%から60%に減少させ、カンボジアとベトナムに工場を作るというヘッジ戦略を取った。またインテルはベトナム、フィリッピン、マレーシア、中国と工場を分散する戦略を取っている。

以上のことを投資の観点から見ると、東南アジア諸国のリスクをポートフォリオの一部に取り入れても良いのではないかという課題が浮かぶ。ただ東南アジア諸国は中国に比べると規模が小さくインフラも劣る。従ってこれらの国が投資対象のメインストリームになることはありえないのだが、中国のおこぼれを頂戴する機会が増えそうなだけにちょっと投資しておくのは悪いことではないかもしれない。今年の研究課題だろう。

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米国住宅ローン市場の危機

2007年01月12日 | 金融

今ある雑誌にリバース・モーゲージに関する小論文を書く準備を進めている。リバース・モーゲージを正しく理解するためには米国のモーゲージ市場つまり不動産抵当貸付市場や住宅市場を把握しないといけないので少し大きな仕事を引き受けすぎたかなぁ・・・と若干負担感が募らないでもない。

モーゲージ・ビジネスつまり住宅ローンビジネスというのは基本的には派手なものではなく、大儲けも大損もないもの・・・つまり英語でいうとboring(退屈)なのだが、ここにきて大きな問題が起きそうになっている。エコノミスト誌は「住宅ローン融資は戦闘の定義に似ているところがある。59分の退屈な時間の後に1分間の真の恐怖がくる」と言い、今がその1分間に当たると示唆している。そういえば米国のエコノミスト達が今年の米国の波乱要因として第1位に「住宅」、第2位に「金融危機」を上げていた。つまり住宅ローンの破綻に起因するリスクを彼等は見ているということだ。我々も又このリスクを概観しておく必要があるだろう。エコノミスト誌の記事からポイントを引いてみた。

  • 米国のサブプライム住宅ローンが混乱をきたしている。ムーディズ等の格付機関は懸念を示しサブプライム取引を格下の可能性がある「ウオッチ」に置いた。また監督官庁もぴりぴりして「貸出基準の緩和」に対して警告を発している。

さてサブプライムとは何かということだが、プライムでないということ。つまり返済懸念の少ない優良な借り手と認められない借り手をサブプライム・ボロワーSubprime Borrowerという。より具体的には個人の場合信用スコアが620点以下の借入人をサブプライムとすることが多い。個人信用スコアは300-900点の範囲で大部分の人は600-700点に分布する。債務弁済において度々遅延があったり、収入に対する債務弁済比率が高すぎると信用スコアが低くなる。なお住宅ローン業者は借り手に対してはサブプライムという言い方はせずノンプライムという言い方をする。

  • サブプライムローンというとキワモノの響きがあるが、現在では主要な商品になっている。Inside Mortgage Finance社によるとサブプライム住宅ローンの年間実行額は2001年から2005年の間に5倍も増え6,250億ドルになっている。しかし急速な拡大の結果60日以上の遅延比率は昨年10月で約8%になっている(UBSによる)。これは前年の約倍だ。抵当権の実行も2倍になっている。更に悪いことにローンの劣化が異常に早い。ローンを実行して最初の数ヶ月に支払いが出来なくなる債務者の比率が4%にもなっている。
  • これらの問題は突然起こった訳ではない。その起源は2004年にある。サブプライムローンの貸し手の間の競争が激化し、貸出レートが7%を少し超えたところまで下がった。しかしこの時連銀は既に短期金利の引き上げを開始しイールドカーブの平準化が始まっていた。銀行は短期で資金調達し、長期の住宅ローン貸出を行なうので、短期金利の上昇は銀行の利益を減らす。そこで銀行はサブプライム貸出金利の引き上げを図ったが、以前と同じ信用力のある借り手は魅力を感じなかった。住宅市場の悪化が見込まれたので、8%以上の金利でローンを借りたのは金が欲しくてたまらない人達だけだった。
  • またネガティブ・アモチゼーションとかアジャスタブル・レイト商品といった金利繰延型商品の導入が問題を大きくしている。

ネガティブ・アモチゼーションNegative Amortisationとは、月々の弁済額が支払い金利に到達しないような少額の弁済でスタートするローンであり、低金利期間は5年間である。しかしその後繰り延べた金利まで含めて弁済を行なうので支払額が急増し、借入人の家計を圧迫する。

  • このような状況下中規模クラスの住宅ローン業者の破綻が出ている。12月には全米17位のOwnit Mortgage Solutionという業者が破綻した。
  • 住宅ローンは証券化されて機関投資家に販売されているが、この証券(MBS)の価格が下落している。ABX Home Equity 06-2 indexというサブプライムローンを証券化したBBB-の債券の指標があるが、これが11月に95ポイント半ばに4ポイント程下落している。

米国の住宅ローン業者の実像を把握したいのだが、これが中々難しい作業である。というのは米国人にとっては自明のことであり、日本人にとっては仕組みが違い過ぎて余り実務的な関心がわかないということなのだろう。それはともかくリーマン・ブラザースやモルガンスタンレーといった米国の証券会社は住宅ローンの証券化のため住宅ローン業者=Mortgage Bankの買収を進めてきた。例えばメリル・リンチは前述した破綻業者Ownitの15%の株を持っていた。住宅ローン業者が破綻する理由は証券化されたローンが実行後数ヶ月で遅延すると買い戻し義務があるこによるものが大きいだろう。

以上が大体の話だ。このサブプライム住宅ローンの問題がどれ位根が深いかまた他の金融商品への波及はどの位あるのか・・いうことは継続的に観察するべき課題だろう。

コメント (1)
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