ウオール・ストリート・ジャーナル(22日)に「短期的には日本の高齢化は企業収益を拡大する」という小論文を発表していた。その主旨は給与の高い50代のサラリーマンが退職し、それをより数の少ないコストの安い若い社員、更には派遣等で代替させるので目先は企業収益を拡大するというものだ。
英語としてはFor some Japanese companies, there may be a silver lining to the nation's graying population.という言い方が洒落ている。Grayは灰色だが白髪混じりという意味があり、動詞としては高齢化という意味になる。Silver liningは銀色のライナー(裏地)ということだが、明るい兆しという成語だ。その語源はEvery cloud has a silver liningという詩の一節。つまり総ての雲は銀色の裏地を持っている=明るい光があるということだ。灰色と銀色の組み合わせが洒落ているからこのまま覚えておきたい言葉だ。
少し記事のポイントを見ておこう。
- 第二次大戦後1947-49年に生まれたベビーブーマーが60歳になり、向う三年間毎年50万人ずつ退職者が発生する。エコノミスト達の見方はしかし少なくとも今後数年間は企業収益にはポジティブな影響を与えるというものだ。
- NTTを例に取ると3,40年前固定電話システムを構築するために、新しい従業員を採用したが、固定電話の収入が減少するにつれNTTは採用人員を削減してきた。NTT東・西とそのアウトソース先を合わせて58歳の従業員は8千名近くいるが、35歳の従業員は約1千名で25歳の従業員は数百名である。
従業員を採用することをTake onという。Take onには「責任を持つ」とか「仕事を引き受ける」という意味がある。つまり人を採用するということは責任を持つということなのである。
- マクアイヤ証券のアナリストは、ベビーブーマーの退職でNTT東の固定費は2008年3月期に06年の1兆5千億円から1千億円減少すると見積もっている。しかし。NTT東のビジネスは古いので収入も同じ時期に1千億円減少して2兆円に減る。この結果収益は06年の660億円から730億円に微増するに留まるというものだ。
余談だが今週末に私はNTTの固定電話から光電話に切り替えることにした。昨年秋から光ファイバーを導入していたが、IP電話に不具合が発生したというニュースがあったので暫らく切り替えを見合わせていたのだ。しかしもう良さそうなので切り替えるというもの。これで固定電話料金が月1千円弱安くなる。安くする方法はNTTが大々的に宣伝している光A(エース)というパッケージを使わないで月5百円の基本料金に自分が必要とするサービスだけを乗せるのがコツだろう。このようにしてNTTの収入は減っていくという見本だ。
- NTTの株価は先週末614,000円だったが、マクアイヤ証券のアナリストは向う1年で490,000円にまで下落すると考えている。ベビーブーマーの退職は大変ポジティブなことだが、その他の問題を相殺するには十分ではないということだ。
- この退職者によるコスト減少のロジックは他の業界にも適用できる。鉄鋼業ではベビーブーマーの人件費に占める割合は16%、金融業界は9%、電鉄等の運輸業界は14%である。ゴールドマンザックスは全体的に見て向う3年間(08,09,2010年)でベビーブーマーの退職による人件費減で企業収益は2%改善すると見積もっている。
賃金が減少するということは、長い眼で見ると国民消費の減少につながるが、少なくとも数年間の間は大量退職による影響はないだろうとエコノミスト達は言っている。それは大量退職者達は貯蓄と多額の退職金を持っているからだ。無論5年10年という期間でみると労働力不足は経済成長率の低下につながる。これを克服するためには生産性の改善、女性労働者の活用、移民等が必要だろうが、短期的には賃金の高い高齢者が若い労働力に替わることで企業収益が改善する。
株式投資の観点から見ると、大量退職者が出て企業収益が改善する会社を狙ってみるのも面白いだろう。しかしこれは中国の三国時代の魏の詩人曹植(そうち)の七歩の詩を思い出させる。
豆を煮るに豆柄を燃やす 豆は釜の中にあって泣く 本はこれ同根より生じ
相煮るなんぞはなはだ急なる
つまり自分が貰った退職金を自分達の世代が退職したことで業績が良くなる会社の株を買う・・・何だか自分の体を燃やして豆を煮ている様な構図ではないか?