金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

効率的仮説への挑戦

2007年01月29日 | 株式

効率的仮説The efficient-market hypothesisというのは現代のファイナンス理論の根底をなすもので「金融市場は競争が激しくなっていて重要な情報はたちまち投資家間で共有されてしまうので、いかなる投資家も市場に勝ち続けることはできない」というものである。無論私などその勝てない投資家の一人だが、世の中にはこの仮説に挑戦し成果を上げている人がいる。それも効率的仮説の本家本元の米国の大学の中でだ。その挑戦者の名前は大学の基金Endowmentである。

最近のエコノミスト誌によると・・・

  • 全米大学事務局連合会(いい加減な訳です)等によると2006年6月までの1年間で大学の基金は平均10.7%のリターン(手数料・経費控除後)を上げた。ベストのパフォーマンスを上げたのはマサチューセッツ工科大学で23%で、エール大の22.9%を僅かに上回った。大学基金は大きくなればなる程運用成績が良くなる傾向があり、残高10億ドル以上の基金の平均リターンは15.2%でヘッジファンド指数を上回っている。なお最大級の基金はハーバード大とエール大の基金で全基金の7分の1程度を占める。
  • 基金のマネージャー達はこの成果を総てスキルによるものとするだろうが、彼等はライバルに対して幾つか有利なところを持っている。原則彼等の投資期間は極めて長い。

Investment horizon投資期間はTime horizonともいう。一般に投資期間が長ければ長い程大きなリスクを取ることができる。

  • 大学基金は年金基金のように負債と資産を合わせることに悩む必要がないので、ボラティリティに対して耐えることができる。別の言い方をすると逆張りcontrarian betsをすることができる。

年金基金の場合は運用制限は多いし、年金や一時金給付の資金繰りも考えなければならない。運用成果がベンチマークに比べて見劣りする時は理事や加入者に説明が必要だが、大学基金の場合はこのような制限がないのである。

  • コーネル大で50億ドルの基金を管理するワルシュ氏は「年金基金はその性質からしてリスク回避的Risk-averseであるが、大学基金は金融的にも知的な面でもより革新的である」という。
  • アメリカの大学基金は初めて退屈な株・債券・キャッシュといった国内資産ミックスを超えて70年代および80年代に代替資産Alternative assetの投資に乗り出した。これらの資産はリスク分散の観点から出来る限り相関関係のないように投資された。それはヘッジファンド、ベンチャーキャピタル、プライベート・エクイティ、不動産、不良債権だった。また大学基金は新興国に投資するという地理的分散も行なっている。

では大学基金が今後も高い運用成果を上げるかというとだんだん難しくなっている様だ。一つは運用手法をまねる投資家Copycat investorが出てきて代替資産の売買を行なうので投資効率が悪化する。

また大学基金の優れたマネージャーが退職してヘッジファンドを立ち上げるということもある。

とはいうものの大学基金モデルは引き続き賞賛を得ていて、日本の大学の中にはエール大モデルを真似しようというところもあるそうだ。

猿真似をしようとする人にはエコノミスト誌の皮肉に満ちた警告を伝えよう。「ハーバード大の前運用マネージャーによると同基金は大学の経済学教授会のアドバイスを受けることを避けてきたから高い運用成果をあげることができた」

このことは資産運用が戦争などと同様、単に知識や技術の世界のものではなく、忍耐・勇気といった精神的要素の高い作業であることを示唆している。また効率的市場仮説が当てはまらない市場やアノマリー(経済的合理性で説明できない事象)がまだまだあることも示唆しているのである。無論だからといって凡人がマーケットに勝てると誤解しては行けないのだが。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする