9月5日(日曜日)午前8時過ぎに自宅を出て、12時半前に仙石線本塩釜駅に到着。暑い!塩釜で美味しいお寿司か海鮮丼を食べる予定で来たが、とても探す気になれず、駅前広場東側の「あがらいん」という店に入る。板前さんとそのお母さんと覚しき女性で店を切り回している。ワイフは海鮮ちらし、僕はマグロ丼を食べる。各880円でお値打ちだが、いなせな雰囲気がなかったのでイマイチというのが僕の評価だ。
さて本塩釜駅から塩竈神社までは徒歩15分程の距離なので歩いて参拝することにした。しかしこれは猛暑を恐れぬ無謀な行為だった。
10数分歩いて表参道の下の着くと天まで届くような石段が聳えている。
石段の数は202段、途中から傾斜が強くなるため門は見上げる程に高い。
汗ビッショリになりながら石段を登り本殿へ進む。本殿右側には「和泉三郎寄進」の灯籠がある。この灯籠は奥の細道に出てくる灯籠なので是非見たかったものだ。
灯籠には「文治三年和泉三郎寄進」の文字が見える。和泉三郎とは藤原秀衡の三男忠衡のこと。父秀衡の遺訓を守り義経に忠節を尽くし衣川に自刃した忠孝の武士である。
奥の細道は「五百年来のおもかげ、いま目の前にうかびて、そぞろに珍し。かれ(和泉三郎)は勇義忠孝の士なり。佳名、今に至りて、慕わずということなし。まことに、人よく道を勤め、義を守るべし」と忠衡を絶賛する。
芭蕉が奥の細道の旅を行ったには元禄2年1689年のこと。それから320年の年月が経った。忠衡の寄進からは8百数十年の月日が流れた。灯籠は今も同じ場所にあるが、忠衡の故事に感動を覚える人は誠に少なくなった。最近歴史に少し関心が出てきたワイフも全く関心を示さなかった。暑くてそれどころでないという感じである。実際暑い。暑過ぎるのである。
それでも本殿にお参りすると優雅な雅楽の音が響いていた。
塩竈神社は奥羽一の宮であり綺羅びやかさ、神韻さともに素晴らしいものがある。
参詣を終えて表参道の石段の上に立つと下から激しく風が吹き、火照った体を一気に冷やしくれた。「涼しいわねぇ」とワイフも喜ぶ。
激しい風に参道脇の旗は千切れんばかりに身を捩っていた。
わが思い 神に届けよ 塩竈の風 北の旅人
石段を吹き上がる風に吹かれていると忠衡を追慕する芭蕉、その芭蕉を追慕する私の思いを塩竈明神が嘉して風を吹かされたのではないか・・・という気がしてくる。
やがて激しい風は収まり涼やかな風が杉木立をさらさらと吹き渡る静寂が戻ってきた。
古来多くの人々が尊崇してきたお社というものは誠に神韻とした趣があるという思いを新たにしながら私は苔生す石段を下界に向かって歩き始めた。