尖閣諸島を巡る日中の動きは米英でも注目を集めている。中でもニューヨーク・タイムズの読者が一番注目したのは「中国が日本向けのレアアース輸出を差し止めている」というニュースだ。このニュースが多くの読者の関心を集めたのは、武器等軍用資材の重要な材料であるレアアースの供給問題が国防にかかわるからだ。記事China is bloking Minerals, Executives sayによると、「中国商務省は木曜日レアアースの日本向け輸出を差し止めていたことを否定した。しかし業界幹部は中国の工場は中国の税関が今週初めに輸出を差し止めた後、まだ出荷していないと述べている」
記事によると中国、日本、北米の業界幹部、アナリスト、トレーダー8名は「中国は中国漁船船長の拘留を巡る外交論争に呼応して中国は火曜日にレアアースの出荷を差し止めたと述べている。中国政府が正式にレアアースの日本向け出荷を差し止めたとなると、日本はWTOに「自由貿易ルール違反」で提訴することができるが、税関による管理上の理由で出荷が差し止められているとなると提訴はかなり難しい。中国は今週水曜日から金曜日まで秋分の祝日。土曜日以降も出荷停止が続くかどうかは分からないが、日本のトレーダーは出荷停止が続くと代替輸入先を見つけることは極めて困難だと述べている。
中国は全世界のレアーアース産出量の93%を占める(そしてそのレアアースの大半はチベットにある)ので、中国はレアアースを外交交渉のレバレッジに使うことが可能と見ている訳だ。ただしレアアースを含む合金の輸出は差し止めていないので、中国はこの機会に原材料としてのレアアースの輸出を抑え、より付加価値の高い合金の輸出を伸ばそうとしているという見方もできそうだ。
日本は中国からレアアースを輸入し、その加工品である磁石等を米国に出荷している(米国は競争力を失い20年前に業界が廃業した)。
ところでレアアースは戦車の距離計や軍艦のソナーシステムにも利用されている。もし中国の日本向けレアアースの出荷停止が長期間にわたると米国は国防上の観点から独自でレアアース資源の確保を検討することもありそうだ。
レアアースを大量に埋蔵するチベットに対して強い支配権を維持しようとすることや、尖閣諸島に対して執拗に領有権を主張することを重ねると中国の天然資源確保に対する強い野望が見えてくる。
かって鄧小平は「中東は原油を持っている。しかし中国はレアアースを持っている」と述べたと言われている。だが中国は今まで中東が原油を政治的武器として輸出制限を行ったようにレアアースを武器に使うことはなかった。
だが今後中国が海洋面で覇権拡大を目指す時、レアアースを政治的・経済的武器として使わないという保証はない。少なくとも今回の出来事はそのようなことがありうるという警鐘は鳴らしたといえよう。