少し前中国の大連で高い毒性を持つパラキシレン工場の移転を求めるデモが起きたことが世界の耳目を集めていた。デモは平和的なもので、その要求は地域エゴ的なものだと言われている。地域エゴまたはNimbyismと呼ばれるものは、not in my back yardの頭文字を取ったもので、ごみ処理工場など必要なものでも、住環境上好ましくないものは自分の裏庭には置かないでくれ!というある意味では地域エゴ的な要求なのである。
中国政府は大連市民の要求を聞き入れてパラキシレン工場を大連市街以外のところに移転することに同意したと報じられている。
この出来事に関して、FTは「どうして中国政府はNimbyismに対応したのか?」という分析を紹介していた。
一般的には一人当たりGDPが5千ドルから6千ドルの水準に達すると、発展途上国は民主化すると言われている。今年のアラブ諸国の民主化運動が成功するかどうかはもう少し時の経過を見ないといけないけれど、所得の向上が民主化運動の前提となったことは間違いなさそうだ。
中国の一人当たりGDPは市場レートベースでは4,660ドルだが、購買力平価ベースでは既に民主化ラインを超えている。だが中国共産党は、中国は例外だとしてこの理論を拒否してきた。
だがFTによるとオックスフォード大学のCollier教授が1960年から世界各国の分析を行った結果、民主主義国家では一人あたりGDPがある閾値を越えると豊かになると社会的騒動が起きる可能性が低下する。しかし独裁国家では豊かになると社会的騒動が増える傾向にあると指摘している。教授によるとその閾値は2,700ドルということだ。
食べることに精一杯の状態では、危険物を製造する工場が近くにできてもそれ程気にならない。まず食料や雇用の確保が第一だからだ。だが少し豊かになると健康が気になってくる。そこで地域エゴ的な抗議行動が発生する。
もしCollier教授の仮説が正しいとすると、中国は豊かになればなるほど抗議行動や騒動が多発し、社会的不安が増すということになる。本当に世界中安心して見ていられる国は少なくなった。