今日(8月24日)ムーディズは日本の格付ワンノッチ引き下げ(Aa3へ)を発表した。こんな日にJapan as No.1の話でもなかろうと思うが、外向専門誌フォーリン・ポリシーにアメリカ戦略研究所のクライド・プレストウィッツ所長のWhat if Janan really is No.1?という寄稿があった。「ジャパンアズナンバーワン」は1979年にエズラ・ヴォーゲルが書いた有名な本だ。この本の後、80年代の日本の躍進があり、やがてバブルで頂点に達した。その後バブルの崩壊とその後始末に追われ、デフレ・低成長の20年が続いている。今ではジャパンアズナンバーワンは遺跡の表札に過ぎないとすら思われる。
だが日本通でありまたジャパンバッシングでも知られたプレストウィッツ氏は、この小文の中で「今日の光景を見ると、(予想に反して)結局のところ、ヴォーゲルは正しくなかったかどうか疑問に思わざるを得ない」と述べている。
今日の光景とは、世界的な債務危機の中で日本円が金やスイスフランと並んで安全資産として買われていることであり、巨額な貿易・経常収支の黒字を貯めていることであり、失業率は米国の半分であり、主要国の中で最長寿国であることだ。
プレストウィッツ氏は、勿論日本は多くの問題を抱えていると指摘する。例えば原発廃止の問題。同氏は日本は原発廃止に向けて動き出し、それは短期的にはコストアップ要因になるけれど、長期的には日本はグリーンエネルギーで世界のリーダーになるかもしれないと言っている。少し持ち上げ過ぎではないか?と思うが、東日本大震災と原発事故で東北地方の工場が止まると、世界のサプライチェーンの歯車が止まったことや、それが比較的速やかに復旧したことを海外から見るとJapan as No.1のイメージが戻ってくるのかもしれない。
この日本への軽い羨望の裏には、米国の中でここ数ヶ月「グローバリゼーション」への信頼が揺らいでいることがあると思われる。90年代のマントラだったグローバリゼーションというのは、米国は製造業を発展途上国に譲っても、付加価値の高い金融とIT産業により繁栄するというドクトリンだったが、これに対する反省が起きている。
プレストウィッツ氏の別のコラムによると、ノーベル経済学賞を受けたマイケル・スペンス氏はフォーリン・ポリシー誌で「1990年以降米国は貿易財・サービスセクターでは雇用増は起きておらず、雇用増があったのは、政府関係の仕事、ヘルスケア分野、建設分野だった」と指摘している。
政府とヘルスケアの人件費は、税と社会保険で賄われ、建築分野の雇用は新規住宅着工などで伸びる。だがこれらの分野への金の流れはすっかり細っている。
だから少々景気が上を向いても、米国では雇用が中々改善しないのだ。雇用回復が喫緊の課題である米国では輸出増とアウトソーシングの見直しが大きなテーマになりつつある。ドル安も米国の輸出競争力を高める方策の一つだ。
グローバリズムの反動で米国の保護主義が台頭するのだろうか?でも万が一にもJapan as No.1などという煽てには二度と乗らないことである。日本は国債の発行残高(GDPに対する比率)という悪いことでも世界一なのだから。