先日ブログの読者の方から「輸出がほとんどゼロになったら失業者はどの程度増加しそうですか?」という主旨の質問を頂きました。全文は下記(赤字)のとおりです。
これは私の手に余る質問で、正鵠を得た回答はできませんが、幾つかのコメントを申し上げたいと思います。
円高で製造業その他が海外に拠点を移管した場合、国内で従事していた人達は失業するのでしょう。GDPに対する輸出の割合が10%だそうですが、それが殆どゼロになったら、失業者はどの程度増加しそうですか?
【輸出のGDP比率が低いからといって経済に与える影響が小さいということにはならない】
輸出の増減が国民所得に与える影響の大きさを示すものとして外国貿易乗数というものがあります。
外国貿易乗数=1/(1-限界消費性向+限界輸入性向)
日本は輸入依存度が低い(GDPに対する輸入の比率は9.7%)ので、限界輸入性向は低く、貿易乗数は高くなります。これは日本は部品の国内調達比率が高いことによります。つまり自動車メーカーに、1次、2次、2次・・と下請けが付いている状態ですね。また下世話にいうと、トヨタさんの輸出が落ちると名古屋の飲み屋さんの売上が落ちるというのも乗数効果です。
従ってもし円高で製造業等が海外に拠点を移すとしたら、失業はその企業や下請企業に起きるだけでなく、飲食業等内需にも起きます。ただしどの位の失業が発生するかは分かりません。
【円高でなくても企業は海外に軸足を移す】
日本貿易振興機構のアンケート調査によると、大企業の3割は円高対策として「海外の稼働率を上げる」と答えています。一方内閣府の「企業行動に対するアンケート調査」で企業の海外進出の理由を聞くと全産業・製造業とも「進出先やその近隣先の需要拡大が見込まれる」ことを第一の理由にあげて、円高に対応すると思われる「コストが安い」を凌駕しています。
少子高齢化で人口の減少する国内市場に限界を感じる製造業・非製造業の海外進出は為替レートに関係なく進むと思われます。
ただし製造拠点は海外にシフトしても、研究開発部門は日本に残す企業が多いと思われますので、海外での企業活動が活発になると、国内の雇用も増え、海外シフトによる雇用のマイナス影響が緩和されると思われます。
以上のように見てきますと、「日本の輸出比率がGDPの10%だから円高の影響は小さい」というのも極論であり、円高要因だけで日本企業の海外シフト(逆に言うと円安になれば国内に留まる)が起きると論じるのも極論に思われます。
しかし高齢化が進み民間消費支出の伸びが期待できない上、財政赤字で政府支出の拡大も望めない日本にとってGDPを伸ばすには、輸出を増やすしかありません。
実力以上(何が実力か?という難問はあるのですが)の円高が持続することは、国の将来にとって困ったものだと私は考えています。