先週末のエコノミスト誌にCould Asia really go to war over these?(アジアはこれらの(島嶼)問題で本当に戦争になるのか?)というタイトルの記事を載せていた。話題の中心は尖閣諸島をめぐる日本と中国が如何にして軍事的衝突を回避するべきか?という話なのだが、センセーショナルな見出しで読者の関心を誘った、というところだろう。
エコノミスト誌は「アジア諸国は友好関係を保つ方が有益な理由があるから、今回の尖閣諸島をめぐるつまらない口論squabbleはおそらく沈静化するだろう」としながらも、百年前のドイツ帝国の勃興を例に引いて楽観論にも警鐘を鳴らしている。
欧州諸国は戦争による経済的利益はなかった。しかしドイツは成長を続けている同国を世界が受け入れるのが遅すぎると感じ、国粋主義が力を得た。
最近の中国の一部のマスコミには、要領を得ない外交交渉をやめて日本に原爆の一つでも喰らわせてやれという主張もでている。無論北京政府の高官は平和を保つことが、経済的利益であることを知っているので、遅ればせながら口論の沈静化を試みている。
しかし尖閣諸島に集まる両国の船の衝突といった不測の事故が、軍事的衝突の危機につながらないように安全装置safeguardが必要だ、とエコノミスト誌は主張する。同誌が主張するセーフガードは3つ。一つは万一船の衝突が起きた時、どのように対処すべきか定めた行動規範を作り、不慮の事故が紛争に拡大することを避けるべきだ、というものだ。
次は過去に毛沢東や鄧小平が行ったように、尖閣諸島に対する主権問題を棚上げすることだ、と同誌は述べる。ちょっと気になるのは、記事の原文にはwithout prejudiceという言葉がついていることだ。Without prejudiceには「偏見なく」という意味と「既得権を侵すことなく」という二つの意味がある。「実効支配」という既得権を侵さないという意味だと良いのだが。
記事は別の個所で「日本の尖閣諸島に対する主張の合法性がどうであれ、その基盤は荒々しい帝国建設にある。すべての国のメディアはしばしば学校で繰り返し教え込まれた偏見prejudiceを刺激している」と述べている。
もしエコノミスト誌のwithout prejudiceがこのような偏見を排除する、という意味なら歓迎するべきなのだが。
最後のセーフガードとしてエコノミスト誌は米国の抑止力をあげる。日本が尖閣諸島を実効支配しているのだから、日米安全保障に基づきそれは米国の保護下にあり、中国は侵略することはできないと知っている、と述べる。もっとも同誌はオバマ大統領の他のアジア諸国に対するコミットメントは明らかでないが、と一言付け加えている。
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中国では近いうちに確実に指導層が交代する。日本でも遠からず総選挙が行われる、と期待している(興石幹事長の留任で民主党は先延ばしを図ろうとするが)。
次の政権与党を選ぶ外交問題上のチェックポイントは、このようなセーフガードの構築にどの程度の見識を持っているか?ということになるだろう。
尖閣問題の原因の一つが、鳩山元首相や小沢元幹事長の不見識な発言と行動から、日米間に溝を作り、その隙間を中国に突かれた、という事実を考えると米国の抑止力を活用するような政策を実現できる政治家にしばらく国を預けたい、と私は考えている。