中国の地方政府の債務について債務不履行リスクが高まっている、ということは海外の金融マンの間では常識かもしれない。格付機関フィッチは先週1999年以降で初めて中国政府の格付を下げたし、今週ムーディーズは中国のアウトルックをポジティブから安定に下げた。第1四半期の経済成長率が7.7%に低下し、中国経済の成長鈍化が予想以上に早いのではないか?という懸念が格付機関を動かしたのだろうか?
さてFTは「中国地方政府の債務は制御不能」China local authority debt 'out of control'という記事を載せいていた。この話が興味深いのは「制御不能」と言っているのが、海外の格付機関等ではなく、中国の大手監査法人である点だ。
その監査法人の名前はShineWing信永監査法人である。信永は東京にもオフィスがある。同監査法人のZhang Ke代表は「幾つか地方政府の債券発行について監査を行ったが、債務履行上大変危険なことが分かったので手を引いた」と述べている。同代表は地方政府の債務は制御不能で米国の住宅市場危機より大きな金融危機が発生する懸念があると述べている。
FTによると中国政府がリーマン・ショック以降地方政府の借入制限を緩和したため、省・市・郡・村など地方自治体の債務は拡大し、10兆元(1.6兆ドル)から20兆元(3.2兆ドル)に達していると推定される。これは中国経済の2割から4割に相当する金額だ。
地方政府は直接起債することを禁じられているので、債務はインフラプロジェクト名のSPCで調達される。このSPCによる起債は中国国内の格付機関から州や市の保証があると見なされ最上級の格付を得てきた。しかし前述の監査法人の代表は自治体の保証にほとんど信頼を置かず、債務者の債務履行能力がはっきりしている債券のみを監査(承認)したと述べている。
つまりキャッシュ・フローを充分生み出すプロジェクト案件に関わる債券のみを承認した、ということである。
ところが実際には地方政府の債務の中には、道路の補修工事などリターンがはっきりしなかったり低いものも多い。もし債券発行時の監査人が、信永と同じような厳しいスタンスを取ると起債(借換が多い)ができなくなり、金詰りに陥る地方政府が出てきそうだ。
その時中央政府や上部の自治体が、弱小自治体の救済に向かうのか、債権者が泣きを見ることになるのかは分からないが、少なくとも信永は「債権者が泣きを見る可能性がある」債券発行には監査法人として承認をしない、というスタンスを取っている。
信永がハードポジションを取っている理由は、海外で責任ある監査法人としての評判を確立したいからである。
今後中国では色々な分野で、海外でのreputationを重視して、投資家・消費者目線で行動する監査機関などが出てくるのではないだろうか?そうだとするとそれは社会と経済が成熟してきた証(あかし)なのである。問題を先送りせずに警鐘を鳴らすことは立派だが、当局がキチンと受け止めないとリスクは高まる。
高速で走り続けてきた中国という自転車が減速すると、車体はふらつき、ボロが目立ってきた。