♭ 人みな花に酔う頃は残雪恋て山へ行く (坊がつる賛歌)
東京の桜が散ってはや3週間、北アルプスの雪の峰々を仰ぐ安曇野では桜が満開だった。桜やリンゴの花が咲き乱れる安曇野から雪の聖域、北アルプスの稜線まで登ってきた。登った先は燕岳。その直下にある600名の収容力を誇る燕山荘はかなり混んでいたから、3百名前後の人が泊まっていたのだろう。
GWの頃の燕岳は天候が良ければ登り易い山だ。それ程急な斜面はないし、雪崩がでそうな場所も殆どない。
だからピッケル、アイゼンでフル装備した老若男女が沢山押しかけてくる。フル装備は良いのだけれど、古い山屋の私には気になることが少なくても2つはある。
第1はピッケルの長さが短すぎることだ。山道具専門店で見ても、シャフト(柄)の長い縦走に適したピッケルはほとんど売っていない。売っているのは雪壁や氷壁を登るのに適したシャフトの短いピッケルだ。シャフトの短いピッケルは主に雪稜を縦走するだけの一般登山者には不便だし、何よりも危険だ、と思うがどうしてこんなものが売れ、こんなものを買うのだろうか?
第2はアイゼンの爪の数が多い登攀系アイゼンを着けている人が多いことだ。アイゼンの爪の数は多い方が滑り難いと考える人が多いから12本爪のアイゼンを買う人が多いのだろうが、爪の数は多ければ多いほど良い、というものではない。爪の数が多くて、特に前爪が発達している場合、爪を引っ掛けて転倒する危険性が高まるからだ。

写真は私が使っているピッケルとアイゼンだ。ピッケル・アイゼンともメーカーはグリベル。ピッケルは市販品としてはかなり長い方だ、と思う。アイゼンは12本爪で縦走用としては少し爪数が多いのだが、心の何処かに未だ氷壁に対する恋心があるので不便承知で使っている次第だ。
本来登山道具に松竹梅はない。登山道具には使用目的と技量に応じたスペックがあるのみだ。4万円以上もする冬靴はマイナス20度の世界で威力を発揮するが、雪のない山では重たいだけの長物である。雪のない山では2万円程度の靴が一番手ごろだろう。
ところがピッケル・アイゼンに関しては「登攀用」が格好良く見えるので「松」になり、縦走用のシャフトの長いピッケルは野暮ったいので「梅」になったのではないか?と私は推測している。
残念なことだが今年のGWも幾つかの遭難事故があった。その幾つかは気象条件の急変によるものだ。現在はゴアテックスという非常に防水性の優れた生地が雨具やアウターに使われるようになった。だがひょっとすると、装備に対する過大な信頼が悪天候下の行動に結びつくという危険性があるのではないだろうか?
「技は力の内にあり」と言う言葉と同様、「いかなる装備もまた技と力の内にある」のである。
力量を超えた装備は無駄なだけではなく、本人に危険をもたらす。