金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

GPIFの株式運用拡大、期待と懸念

2014年04月21日 | 投資

先週水曜日に麻生財務相が「6月にGPIFの動きがでて、それにつれて外国人投資家が動く可能性がある」と発言。この発言を受けて日経平均は400円を超す値上がりをした。私たちの年金資金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、6月に基本ポートフォリオを見直し、現状6割を超える国内債券運用を削減し、株式投資に資産を振り向けるのではないか?という憶測で日本株が買われた訳だ。

GPIFが株式運用を増やすことになれば、短期的には株価は上昇することは間違いないだろうから、(多少なりとも日本株を持つ身としては)歓迎したいところなのだが、単純に喜べないところがある。

その一つはGPIFから大量の資金が株式市場に流れ、株価が上昇するということで、今でも規律と緊張感を欠いている株を発行している企業が益々弛緩する恐れを感じるからだ。

先週金曜日に生保協会は「株式価値向上に向けた取り組みについて」http://www.seiho.or.jp/info/news/2014/0418.htmlという調査結果をリリースしている。

このことはWSJも取り上げていた。外国人投資家が注目すると思われる記事のポイントを紹介すると次のとおりだ。

  • 日本の金融機関は日本株の約3割を保有し、生保の保有比率は4%。今までのところこれら金融機関は企業が稼いだ金の使い方にあまり口を挟んでこなかった。
  • 金融機関を除く日本企業が保有している現預金は220兆円を超える。しかし生保協会のレポートによると、日本企業は純利益のたった10%しか自社株買いに充当していない(米国では純利益の半分以上を自社株買いに充当するのが一般的)
  • 生保協会は500社以上の企業を調査対象している(正確にいうと時価総額上位1,129社にアンケートを送り575社が回答してきた)が、その半分以上の企業がROE(自己資本利益率)の目標を定めていなかった。また目標を定めている企業でもその2/3以上の目標は10%以下だった。
  • 生保協会によると、米国企業のROEが16%なのに比べ、日本企業は5%に過ぎない。自己資本利益率が低い原因は、日本企業の売上高純利益率が2.1%と米国企業の8.5%に較べて極めて低いことに起因する。

なお生保レポート(サマリー)を読むと、配当水準については6割弱の投資家は「半分程度は満足できる水準」としているが、3割強の投資家は満足できる企業はあまり多くないと判断している。

投資家と企業で意見の対立が顕著なのは自社株買いだ。投資家の73%がもっと積極的に自社株買いを行うべきだと考えているのに対して64%の企業は自社株買いに消極的である。

話を本題に戻すと、もしGPIFが上場企業の株式全部を時価ウエイト比率で買う(つまりTOPIXに投資する)ような投資をすると、「株主から見て良い会社」の株価だけでなく「株主から見て悪い会社」(つまりROEが低く、株主還元度合いも低い会社)の株価もそれなりに上昇する可能性がある。つまりGPIFの巨大資金が「株主から見て悪い会社」の経営陣を甘やかすことになる可能性があると私は考えている。

もっともGPIFも単純なインデックス投資だけではなく、優良企業をピックアップしたJPX日経400などの新株価指数に投資するから、良い会社と悪い会社の株価の差は拡大するかもしれない。

GPIFの日本株投資が企業の株主への利益還元に対する緊張を高める上でプラスに働くのであれば歓迎だが、そうでないと我々国民が積み立ててきた年金原資は効率の悪い企業の延命策に使われる可能性もあるのではないか?というのが私の懸念だ。

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