「複数の財布を持っている」といっても、物理的な財布(札入・小銭入れ)の数の話ではない。日用品・衣料品・趣味の支出など使途別の勘定(あるいは感情)の話である。
人は使い道によって財布の紐の締め具合・緩め具合が違うと思う。たとえば私の場合、趣味の山登りについては比較的おおらかに使っている。たとえば登山靴等の装備が古くなってくると、割りとあっさり新しいものに買い替える。それは時としては命に直結する道具だからだ。だが普段履の靴やビジネスシューズについては、結構古いものに手を入れて騙し騙し使っている。
「人は複数の財布を持っている」といったが、余程のお金持ちでもない限り、合計した財布の大きさには限りがある。だからどこかで大きな(紐の緩んだ)財布を持つとどこかの財布を小さくしなければならない。
どの財布を大きくするか?はその人の趣味やライフスタイルにかかわるので、必ずしも合理的な根拠はない。たとえばかなり高価な車に乗っている人が、数円安いガソリンスタンドを発見して喜んだり、小さなものの値段に敏感な人がお酒を飲みに行くと急に気が大きくなるという具合に、財布は好みにコントロールされている。そして比較的ものの値段や税金に鈍感であると私は感じている。
ここで何が言いたいか?というと、モノやサービスを売る立場から見ると「大きな財布」を狙わないといけないということだ。日用品を買うような財布は小さくて、合理的な判断で動き、モノの値段や税金に敏感だ。だから小さな財布ばかり狙っていると、価格競争のスパイラルに巻き込まれる。
しかし大きな財布は「自己満足」を得るために、紐が緩む可能性がある。4月の消費税引き上げ以降消費が低迷しているという。それは小さな財布が敏感に反応して、大きな財布にまで影響を及ぼしているからだ、と私は思う。
国や地方自治体のレベルで考えると、持続的に消費を増やすには、消費者の「大きな財布」に働きかけることが必要なのだと思う。具体的にいうと、個人の趣味やライフスタイルに働きかける政策が必要なのだ、と思う。年金制度や介護制度への信頼を高めて、消費者が必要以上に財布の紐を締めすぎないようにすることも必要だろう。