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山好き金融マン(OB)のブログ
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認知症患者の預金引き出し、限定的に親族も可能に~全銀協案

2021年02月17日 | ライフプランニングファイル
 今日(2月17日)日経新聞朝刊(私はネット版で読んだ)に「認知症患者の預金引き出し、代理権ない親族も 全銀協案」という記事が出ていた。
記事のポイントは次のとおりだ。
  • 全国銀行協会(全銀協)は認知症患者の預金の引き出しについては、成年後見制度の利用を「基本」としつつも、代理権がなくても「極めて限定的な対応」として、預金の代理出金を認める方向だ。
  • 全銀協は考え方を18日(明日)公表する
  • 2025年には認知症患者は700万人前後になるという推計がある。(筆者注:推計の根拠になっている2012年の認知症有病者数は462万人)
  • 今は本人の財産保護のため認知能力が低下すると預金引き出しに応じない銀行が多いが、預金を引き出したいという家族のニーズは高まっている。
  • そこで全銀協は成年後見制度など法的な代理権を持っていない親族でも「預金の引き出しが本人の利益に適合することが明らかな場合に限り」依頼に応じることにした。
  • 家族関係を示す戸籍謄本などで家族の本人確認を徹底する。
 正式なコメントは全銀協の正式発表を読んでから行いたいが、予備的に次のことをコメントしておきたい。
  • 厚生労働省が発表している「成年後見制度の現状」によると「成年後見制度」の利用者数は210,290人(内成年後見が165,211人、任意後見は2,516人)である。仮に現在の認知症の有病者数を500万人程度とすると利用率は4.2%、つまり100人に4人程度しか成年後見制度は利用されていない
  • 成年後見制度は法律により、認知症などで財産管理能力を失った人の財産を保護するための制度であるが、家庭裁判所への後見開始の申立てなど所定の手続きがありまた費用もかかる。
  • 成年後見開始の申立て動機としては預貯金等の管理・解約が圧倒的に多い。
  • 銀行側の論理を考えると「銀行は正当な債権者(預金者)に預金を払い出す」ことで預金債務を弁済することができる。逆にいうと真正な権利を有していない者に預金を払いだした場合、銀行は正当な預金者から債務不履行で訴えられる可能性がある。今回銀行協会はこの問題をどう整理したのか興味があるところだ。一般に代理については「顕名説」と「代理権説」がある。代理権説では代理権の授与が代理の成立要件だが、本件の場合代理権の授与はないので代理権説を根拠にはできない。根拠になるのは顕名説的な考え方、つまり代理人が本人のために行うという意思表示が重要な根拠となる。「本人の利益に適合することが明らかな場合に限り預金の払い出しに応じる」というのはこのことを指していると考えられる。
  • 対応する銀行の窓口は払い出しを請求してくる人の本人確認や本人との関係確認あるいは資金使途の確認等に手間取ることが多くなるだろう。
  • なお本件と直接関係はないが、インターネットバンキングが普及してきたので、本人が認知症になる前に家族に自分の銀行口座へのアクセス方法(パスワードやトークンなど)を伝え、本人が行為能力を失った後、家族が本人口座からインターネットバンキングを使って預金の引き出しを行うことは十分考えらえることだ。
  • 認知症患者の増加とインターネットバンキングの拡大は新たな問題を生み出しつつある。
コメント
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