金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

ウォールマート平均時間給15ドルへの引き上げの意味するところ

2021年02月19日 | 投資
 昨日米国最大の雇用主ウォールマートは42.5万人の時間給労働者の平均賃金を時間給15ドルに引き上げると発表した。
 時間給15ドルというとバイデン大統領が発表している2025年までに最低時間給を現在の7.25ドルから倍の15ドルに引き上げるという提案を思い出す。
 ただしWSJはウォールマートの発表が最低時間給引き上げ支持派にも反対派にも論拠を与えるだろうと分析している。
 支持派にとっては新型コロナウイルス感染拡大の中でも企業には賃上げ余地があるという論拠を与える。一方反対派にとっては政府が最低賃金を引き上げなくても、自由市場の競争原則に委ねれば、景気が良くなると賃金は自然に上昇していくという主張に論拠を与える。
 私は米国の最低時間給は11年間7.25ドルという先進国では極めて低い水準に据え置かれているので引き上げるべきだと考えている。
 ところで実際の小売業の非監督者時間給の平均時間給は18.17ドル(米国労働省2021年1月)である。またアマゾン、ターゲット、コストコの最初の時間給は最低でも15ドルである。
 ウォールマート自体の最低時間給は11ドルで平均時間給は14ドルだから平均時間給を15ドルに引き上げるということは数字が持つイメージほど大きな話ではないかもしれない。もっとも実際の金額では約7百億円相当の人件費アップとなるので大きな話であることは間違いないが。
(1ドル×8時間×200日×42.5万人×為替レート)
超党派の議会予算局の試算では、最低賃金を15ドルに引き上げると27百万人で時間給が上昇し、90万人のアメリカ人が貧困ラインから抜け出すことができる。一方140万人が職を失うと想定されている。
 雇用の面で強く影響を受けるのは体力の乏しい中小企業だ。現在の最低時間給でやりくりしている中小企業にとって最低時間給の引き上げは死活問題になるだろう。
 最低時間給の引き上げは一方で小売業のカウンター業務の自動化を推し進めるに違いない。日本の食品スーパーではまだまだレジでオペレーターが商品をスキャンして現金を受け取る風景が一般的だ。だが数年すると世界的には牧歌的風景と揶揄される可能性がある。
 アメリカにはファックスマシーンが見たければ、スミソニアン博物館か日本に行け、という言葉があるそうだが、やがてレジ打ち風景や現金払い風景を見たければ日本に行けと言われるかもしれない。
 最低時間給の引き上げがあらゆる業務の省力化を加速し、省力化は企業規模拡大のドライビングフォースになるだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする