少し前から「リスキリング」(働く人の学び直し)ということが言われている。最近では岸田首相がリスキリングを「新しい資本主義」の第一の柱にすると強調し、人への投資を5年間で1兆円にすると述べた。
リスクリングというと新しいスキル~例えばプログラミングなど~の習得をイメージして語られることが多いだろう。
だが中年以上の人に技術学習に関する教育機会を与えることだけでリスキリングは進むものだろうか?
この点について私はかなり疑問に感じている。それは学習に対するモチベーションの問題や、好奇心などのメンタリティの問題が非常に重要だと考えるからだ。つまり「何のためにリスキリングするのか?」とか「リスキリングによって得られるものはなにか?」ということが明確でないと学習意欲がわかないし、学習成果も上がらない。
私が考えるリスキリングの目的は、「技術を磨くことで新しい仕事に出会う可能性を高める」という一点に尽きる。この考え方は「計画的偶発性理論」を唱えたアメリカの社会学者クランボルツ博士の理論に基づいている。クランボルツ博士の理論は次のとおりだ。「キャリア(職業経歴)の8割は偶然に決まる。従ってキャリアを開発しようと思うなら、幸運に出会う機会を増やすとよい」というものだ。そして博士は幸運に出会う機会を増やすには「好奇心」「持続性」「柔軟性」「楽観性」「冒険心(リスクテイク)」が必要だと述べている。
リスキリングによって新しい技術を身に着けたとしても、それだけで新しい職場で働ける訳ではないし、新しくビジネスを立ち上げることができる訳ではない。新しい環境への適応力を生む柔軟性や楽観性が必要なのだ。
柔軟性や楽観性は天性の気質による部分もあるが、人生経験を通じて獲得する後天的な部分もあると私は考えている。
ただ好奇心にしろ、柔軟性にしろこれらのメンタリティを身に着けるには、技術を学ぶよりはるかに長い時間と本気の取り組みが必要だ。
そしてそれは本の上で学ぶものではなく、スポーツなど心身の活動を伴って学ぶことが多いと思う。
結論を言おう。もし本当にリスキリングによって働くチャンスを拡大することを考えるなら、まず好奇心・冒険心・持続性などのメンタリティを高めることだ。それは若い時からの総合的な人生経験を経て身についていくものだ。だから若い時からチャレンジする習慣を身に着け、それを評価するような社会を作っていくことが大切なのだ。