尖閣問題に関して公務執行妨害容疑の中国船船長を釈放した政府の施策(政府は検察の独自判断と述べているがそのような訳はない)については内外のマスコミ・識者から色々な批判がある。政府の施策について私も意見を持っているが、今は敢えて声高に政府を批判しないでおこうと考えている。何故ならそのような政府批判は時として国益にマイナスになるからである。この点は国内のマスコミにも十分注意をして頂きたい。政府をたたいて読者の関心を買い発行部数を伸ばすことはビジネス上プラスだろうが、国益を大いに損なう可能性があることには十分留意していほしい。大手マスコミは第二次戦争当時政府に迎合して国民を戦争に煽ったことを忘れてはいけない。
だがもっとも注意が必要なのは政治家特に首相経験者の軽率な発言である。新聞によると鳩山前首相は「尖閣諸島問題に関し自分が首相でれば温家宝首相とダイレクトに話をして問題の解決にあたることができた」という趣旨の発言をしている。だがこれ程馬鹿げて危険な発言はないのである。
一国の政治体制の堅固さは関係諸国、わけても利害関係が対立する中国が注目しているところだ。与党である民主党の前首相が現職の首相を批判するような発言が中国を含む諸外国に聞こえると~すでに聞こえていると思うが~、彼らは更に日本の政治体制の弱い部分をついてくるだろう。
そもそも一国の政治を宰る地位にあった人間がその後任者を特に外交政策において軽々に批判するようなことは成熟した国家で起きることなのだろうか?
例えば小泉元首相は公然と彼の後継者である安倍氏や麻生氏を批判していただろうか?
ブッシュ前大統領は公然とオバマ大統領を批判しているだろうか?
読者諸氏は「韓国では大統領を辞めると次の政権下では訴追される」ということを想起するかもしれない。それは残念ながら韓国の政治が未だ成熟していないことの証である。だが成熟した国家においては前首相(前大統領)が現職の外交を軽々に批判するようなことは厳に慎むべきである。
鳩山前首相に限っていえば、彼は温家宝首相とダイレクトに話すホットラインを持っていたかもしれない。だが仮にホットラインを持っていたとしても大事なことは話す内容である。鳩山前首相は尖閣諸島の日本の領有権の正当性について良く分かっていなかった。もし彼のような人間が温家宝首相とホットラインで話をすれば更なる譲歩を与えたのではないだろうか?
私は中国船長釈放に関する今回の菅政権の判断を無条件に支持するものではない(もう少し分析してから判断を下したい)が、慎重に評価を下すべきだと考えている。少なくとも外交的影響を考えると軽々に政局にするべきではないと考えている。
中国は日本の頻繁な首相交替の弱点や日米関係のきしみを突いてきているのであり、それを助長するような言動を慎むのが政治家の責務ではないだろうか?これを政局にしようなどと考えるのは、利敵行為と言わざるを得ない。
そもそも日米間にきしみを招いたのは鳩山前首相や小沢前幹事長の思慮を欠く発言であることを考えると、鳩山前首相が「自分であれば温家宝首相と話ができる」などと発言することは無責任の極みという他ないのである。
このようなLoopyは別として今の政治家に求められることは、国益を守ることにもっと慎重になるべしということだろう。