一日中、じめじめと蒸し暑いお天気。南の海上をゆっくり進んでいる台風12号が湿った空気を運び込んでいるんですね。
SF大会の準備で小松左京さんの『やぶれかぶれ青春記』(旺文社文庫)を読み直しているのですが、この自伝、もとは〈蛍雪時代〉の1969年4月号から11月号に連載されたもの。私が高校3年の時です。
ということはつまり、ここで小松さんが「読者諸君」「君たち」と呼びかけている相手は、ズバリ、私を含む受験生だったことになります。
しかし、残念なことに私は〈蛍雪時代〉という受験ガイド誌を読んでいませんでした。読んでいたのは〈SFマガジン〉。この連載のちょっと前まで、小松さんの『継ぐのは誰か?』が連載され、そちらの方に夢中になっていたのでした。
もし私が〈蛍雪時代〉を読み、『やぶれかぶれ青春記』を読んでいたら、どうなっていたか?
答はむずかしいのですが、たぶん、あまり変化はなかったのでは。
というのも、その頃、ちょうど訳された『猫のゆりかご』のヴォネガットや『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』のディックに強く惹かれていたし、学校の図書館にある集英社版〈世界文学全集 20世紀の文学〉を全部読んでやろうと頑張っていた(無理でしたが)ので、あまり読書傾向に変化は出なかったと思うのです。でも、小松さんに対する印象は少なからず変わっていただろうな。
この自伝からはSF作家の萌芽はほとんどうかがえませんが(わずかにダンテとシュペルヴィエルの読書歴が語られるのみ)、自らをかなり偽悪化しつつ描く戦中・戦後の青春は小松さんと小松作品を読み解くためには欠かせない内容となっています。