米国の金融危機に関して以前から気になっていることがあった。それは米国では企業年金制度が確定給付型から確定拠出(401k)型に移行しているので、多くの退職者や退職間近な人にとって、株式相場の悪化が大きな影響を持っているということだ。
確定給付年金から確定拠出年金へ移行することは、投資リスクと投資責任が雇用者から従業員に移行したことを意味する。投資責任とは「自己責任原則」と言って良い。「自己責任原則」とは金融商品取引において投資家が損失を被ったとしても、投資家が自らのリスクでその投資を行った限りは、その損失を負担するという原則だ。
私は最近この自己責任原則というものに、若干の疑問を感じている。それは自己責任原則は「人間は経済や金融に関する知識を習得すると合理的で妥当な投資判断ができる」ということを前提にしているが、この原則が正しいかどうかいうことである。
今日の米国発の金融危機は「金融のプロ」によって引き起こされている。金融のプロが挙って結果としては価値のない金融商品に投資したことが、他のバブルと同様、問題の発端である。プロですら判断を誤るのだから一般の消費者が判断を誤ることがあっても何の不思議もない。
問題はその責任を総て個人に負担させて良いのかどうかという点だ。これについて最近ニューヨーク・タイムズ(NT)に次のような記事があった。原題はFrom Here to Retirementだ。
記事によると1983年には確定給付年金が62%、確定拠出年金が12%だったが、現在は約20%だけが確定給付年金の参加者で3分の2は確定拠出年金オンリーになっている。そして今回の株式市場の下落で、家計の退職準備金の内約2兆ドル(180兆円)が吹っ飛んでしまった。
無論株式市場はやがて回復するという楽観的な見通しもあるが、今日市場が直ぐに回復すると考えている人はいない。
NTはThe wipeout in 401(k)'s has made it clear that it is not enough to
get more people to save more.という。「401kプランが全滅したことで、より多くの人々により貯蓄を増やせというだけでは不十分だということが明らかになった」ということだ。そしてNTは「生涯にわたる貯蓄が個々人のコントロールできない力によって台無しにならないようにする合理的な手段が必要だ」と主張している。
米国では数十年にわたって確定拠出年金を促進してきたので、この問題に取り組むのは中々難しい。しかしNTは「オバマ政権のオルスザッグ行政予算管理局長は年金問題の専門家の一人だから早くこの問題に取り組む方が良い」と結んでいる。
日本でも確定給付年金から確定拠出年金に移行した企業もある。しかしこれに関しては歴史が浅いだけに、「個人積立勘定の痛み具合」はそれ程大きくないだろう。
ただ企業経営者や人事担当者にとっては、大いに考えさせられる問題だ。