エコノミスト誌が「若年時の体験は投資行動に大きな影響を与える」という研究を紹介していた。この研究はカリフォルニア大学バークレー校とスタンフォード大学が行ったもので「違った時期に生まれ、違った経済体験を行った人は同じような環境下でも金融面で極めて異なる意思決定を行う」ことを明らかにしたものだ。
その研究によると「株式のリターンが低かった時期に成長した人は、株式のリターンが高かった時期に成長した人よりも、リスク回避的で株式への投資割合を小さくする。」
また驚くべきことに金融に関心を持つ以前の子供の時の経済環境がリスク選好に最終的な影響を与えるという。
子供の時の環境が生涯のリスク選好に影響を与えるということについて、自分の経験を振り返ると、私は子供の時から崖をよじ登るのが好きだった。その崖というのは家の近くにあったもろい赤土混じりの切通しの壁で、子供の頃に足場を刻んでは登っていてことを思い出す。私は比較的リスク選好の強い方だと思うが、近所によじ登るに手頃な崖があったことがこの性向を高めたのかもしれない。
ところでエコノミスト誌に出ていた研究成果を金融実務に生かすと次のようなことが考えられる。
一つは株式投信などリスク商品を販売する時のターゲット選定に顧客の若年時の体験を活用することである。若年時に高度成長とインフレや株式活況を経験した世代はリスク選好性が高いという説明はある程度説得性がありそうだ。顧客の育ちを見て、セールス商品を考えるというのは面白いアイディアである。
また金融機関がセールスパーソンやファンドマネージャーを育てたり、監督する上でその人達の若年時体験を参考にするということも考えられる。
また一個人として金融面の意思決定をする時に「自分は好況期やバブル期に育ったので自分には過度のリスクを取る傾向がある」とか「自分は株式低迷期に育ったので、過度にリスク回避的である」という自己洞察を加えるとより賢明な判断ができるかもしれない。