映画「武士の家計簿」は12月4日封切り日にワイフと観に行った。御算用者(会計係)として加賀藩に使えてきた猪山家。八代目直之(堺雅人)は真面目で、かつ演算面に天才的ひらめきを示す。一旦は勘定方の不正を指摘したため、能登勤務という左遷を命じられる。だが勘定方の不正は摘発され、廉直な直之は異例な昇進を遂げる。
直之の息子は成之(伊藤祐輝)は明治維新の時、大村益次郎に計数に明るいところを買われ、官軍の主計を担当し出世する・・・という話だ。
斬り合いも戦闘場面もないという異色の時代劇だ。だが江戸時代三百年の歴史を支えたのは猪山家のような地味で誠実な官吏だったということを改めて認識させてくれる映画である。
民主党は「政治家主導」をスローガンに政権を取った。だが政権を取った後、内外で不手際が目立っている。これは官僚の良いところを利用していないからである。
大村益次郎は幕府側についた加賀藩士の中から計数に明るい算盤侍の成之を重用した。この見識が必要だろう。
主役の堺雅人は派手なイベントはないが確実な人生を歩んだ直之の人生を抑制の効いた演技で良く演じていたと思う。世の中を支えるのは彼のような地味で誠実な人々だということを改めて思い出させてくれる映画であった。
だが映画の先に想像の世界を広げてみよう。日本陸軍の生みの親・大村益次郎は暗殺者の凶刃に倒れ、彼の弟子筋にあたる山田顕義や児玉源太郎もやがて死に日本陸軍から「算盤侍的」合理精神は失われる。
日露戦争で勝利した日本はやがて「英米との勘定の合わない戦争」へと突入していく。このことは「武士の家計簿」の話を越えているが、算盤侍が軽視される社会はどこかおかしな社会であることは心にとめておいた方が良いだろう。