金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

ユーロの墓堀人は避けたいメルケル首相

2012年06月05日 | 金融

ニューヨーク・タイムズによると、ドイツは債務負担に苦しむユーロ圏諸国をサポートするため、重要な取引を条件付だが受け入れる準備があるということだ。ドイツ政府はユーロ諸国の連帯債務になる欧州債の発行については、憲法違反になると反対しているが、新しい提案は欧州諸国が抱える既存の不良債権をプール化して25年で返済を受けるというアイディアはドイツ国内で代替案として勢いを増している。この提案が欧州債構想と異なる点は、オープンエンド型ではなく、対象範囲が限られていることで、ドイツの憲法裁判所の承認を得る上でプラスと考えられている。

ただしその見返りとして、ドイツは広範な財政統合、欧州全体の銀行の監督及び緊密な経済政策の協調を求めている。

このような大きな規模の変革は容易でないし、市場にユーロの安定を納得させうるかどうかははっきりしない。先週末著名なヘッジファンド投資家ジョージ・ソロスは「ユーロ圏の政治的・社会的力学はユーロの崩壊に向かって動いている」「ドイツの支援なくして何もできない」と警告を発した。

だがドイツ政府の懸念は財政支出と赤字に対する防止装置がないと、ドイツは支出過剰のパートナーに骨までしゃぶられるということだ。あるドイツの新聞は「メルケル首相はゆっくりと時代の変化に適応を始めている。彼女はユーロの墓堀人になることを望んでいない」と書いていた。

だがそれは時間との戦いである。

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新しいボラティリティの時代

2012年06月05日 | 金融

昨日ブログの中で「金融」から距離を置き始めている・・・・と書いた。その理由を幾つかあげたが、今ひとつすっきりしないものがあったが、今日ファイナンシャル・タイムズのGillian Tett女史のOur volatile age defies spreadsheet strategyという文章を読んですっきりしないものが何であるかが判然としてきた。

それは過去2,30年の間に発展してきた「金融工学」の根幹を揺るがす問題が起きているということだ。

広い意味の金融工学は、過去のトレンドを分析し、将来を予想し、リスクをプライシングに織り込むことである。そこでは人々は「経済合理性」に基づき、市場に参加し、お互いに約束を守ることが前提になっている。

Tett女史は「20世紀の中頃融資業務を実践したバンカーにとっては、カウンターパーティが約束を守るかどうかというリスク判定が重要で、トルコやインドネシアの与信リスクを判断する時、政治リスク、公民としての価値観、社会文化といったソフト要因に注意を払っていた」と述べる。

しかし欧米のような先進国については、政治リスク等のソフト要因は無視されインフレ率等計量化できるリスク要因のみがフォーカスされてきた。だが今南欧諸国で起きている問題は、まさに政治的・社会的なリスクの問題である。

☆   ☆   ☆

古代のギリシャやローマにおいて、無担保でお金を借りることができたのは貴族や上流階級の市民のみであった。奴隷もお金を借りることができたが、彼等は必ず担保を求められた。上流階級の市民は「必ず約束を守る」という社会的信頼の下で、無担保取引ができたのである。

リーマンショックや今のスペインなどの金融混乱の原因をたどると、無節操な住宅ローン融資の問題に行き当たる。住宅ローンは英語ではmortgageというが、その語源はフランス語のmort「死」とgage「ギャンブル」にあるという説がある。不動産を担保にお金を借りるということは命を懸けたギャンブルという意味だろうか?

本来の融資は「債務者の返済意思と返済を可能にする事業計画や収入」をベースに行なわれるべきものであり、担保物件の処分による弁済は最後の手段であるべきだった。だが担保付融資が拡大する中で、このような規律が弛緩していったのではないだろうか?

取引相手の債務履行意思を前提にした現在の金融取引の枠組みが揺らいでいる。信頼が回復しないと、疑心暗鬼が広がり、担保以外に信じるものがなくなる。それは奴隷の取引への逆戻りである。

Tett女史は「我々は新しいボラティリティの時代に入っている。それは金融と経済の面だけではなく、政治的な面と社会的な面において」と結んでいる。いわば市民社会の根幹をなす「約束を守る」という基本的な規律がリスクに晒されているのである。

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