昨日(1月25日)夜7時30分からNHK首都圏スペシャルで「雪山へGO 2013-達人と楽しむ冬の名峰」という番組を見た。山好きの方の中には「観た、観た」と仰る人や「ビデオに撮って週末に観る」という人も多いのではないだろうか?(もし私の親しい知人の方で「見損ねた、撮り損ねた」という人がいて是非観たい!というのであればDVDをお送りしますから連絡してください)
映像がきれいな良い番組でケチをつけるつもりはないが、少し気になる点がある。それは「冬の北横岳」と「冬に西穂高岳(登ったのは独標までだが)」を同じ番組内で並べてさらりと紹介していることだ。
この二つの冬山を歩いたことがある私としては、この点に少し違和感を感じている。簡単に言うと北横岳は「装備(ウエアと4本詰めアイゼン)があれば誰でも登ることができる冬山」だが西穂高は「完全な冬山装備(冬山専用靴、10-12本爪アイゼン、ピッケル、ハーネス、ザイル等)とピッケル・ザイルワークが必要な山」であり、その差は大きいということだ。
夏山ルートしても西穂高の稜線は一般コースのかなり上位に位置する。八ヶ岳などと較べると鎖や梯子など人工物が少なく、しっかりしたルートファインディングや三点支持を求められるところがある。だが一般ルートであることには変わりなく岩登りの特殊技術は必要がない。その意味では「夏の北横岳登山」と「夏の西穂高登山」の間には、量的な困難さの違いはあっても、質的な困難さの違いはない、ということができるだろう。つまり普通の人が何回か普通の山登りを重ねていけば、夏の西穂高は登ることができる山なのだ。
しかし「冬の北横岳登山」と「冬の西穂高岳登山」の間には質的な困難さの違いがある。はっきりとした技術断層があるのだ。その技術断層は、アイゼン・ピッケルワークとザイルワークである。
テレビではモデルのKikiさんを近藤ガイドがリードし、最後はアンザイレン(ローブで体を結び合って)して独標に登っていた。ガイドの完全なリードがあるので、Kikiさんにはロープワークの負担はなかったと思うが、一般的にはロープを結び合った継続登攀はかなり高度な技術だ。つまり万一パートナーが滑落した場合、確実に止めるには相当な熟練を要するからだ。
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私はテレビを観て、冬の北横岳に登った人の内何人かは西穂高岳に向かって歩き始めるのではないか?と少し懸念を持っている。番組は明示的に教えなかったが二つの山の間には明確な技術断層がある。
実は7年ほど前初冬の西穂を目指したことがあったが、新雪が安定していなかったので独標の一つ先のピラミッドピークで引き返したことがあった。http://blog.goo.ne.jp/sawanoshijin/d/20051105
その時も何ヶ所かザイルを使って慎重に上り下りしたことを今でも思い出す。
十分な冬山経験がない人あるいは「昔とった杵柄」という人で冬の西穂にトライしたいという人がいれば私はガイドさんを使うことを強くすすめたい。