【3日目 鷲羽岳から黒部五郎小舎へ】
この日の行程は楽なので、三俣山荘で朝食を頂き(これ以外の日は朝食を弁当に替えて早く出発した)、空身でまず鷲羽岳を往復した。
6時34分三俣山荘発 (写真は昼過ぎの鷲羽岳)
日本百名山の一つ鷲羽岳(2,924m)は三俣山荘から標高差約400メートルであるが、空身なのでピッチは上がる。
少し登ると三俣山荘とその向こうの三俣蓮華岳が見えてきた。
大きな良い景色だ。7時40分山頂、1時間少々の登りは参考時間(1時間30分)較べてかなり早い。空身と朝一番のせいだろう。
昨夜は狭い仕切りの中に詰め込まれ、他の組の登山者のいびきに悩まされたが、何とか乗り切れそうだ。
真下には鷲羽池が見える。
鷲羽岳の頂上はややもやがかかっていた。
10分景色を楽しんで下山開始。8時40分三俣山荘着。8時56分黒部五郎小舎へ向けて出発。
三俣蓮華岳に向かう坂道を登っていくと今登ってきた鷲羽岳のガスが晴れてきた。
10時15分三俣蓮華岳2,841m到着。
10時40分黒部五郎岳への捲き道との分岐。ここから黒部五郎小舎への降りは長い。
明日越える予定の黒部五郎岳がガスの中から全貌を現した。カールの懐が深い大きな山である。
ようやく黒部五郎小舎の赤い屋根が見えたが、それから10分ほど降りが続いた。黒部源流の山々は大きいと思う。
11時35分小舎到着。この日は半分休養日に充てていたので、Sさん持参のラーメンや餅(味噌汁に入れた)で長い昼食を楽しんだ。チェックインした時は小屋の人に「ビールはじめ総ての飲料は売り切れです」と言われたが後で「一人一缶だけOK」となり、チビチビとビールを飲みながら午後のひと時を過ごした。
この日の行動時間は三俣蓮華岳の登りが参考タイムよりやや遅かったが、降りは参考タイムより若干早くトータルとしてはトントンだった。高校時代は参考タイムより如何に早く登るか?ということを目指して頑張ったものだが、シニアになると荷物を背負って参考時間通りに歩くことは難しくなってきたなぁと感じる。
まあ、我々シニア世代には「シニアの標準タイム」がある、ということなのだろう。
【4日目 黒部五郎岳を越えて飛越新道へ下山】
長い山旅の下山の日が来た。長い
下山に備えて4時30分過ぎに小舎を出発。真っ暗な夜道をヘッドランプと先行者の歩みを頼りにカールへの道を歩む。
1時間ほどすると朝日が差し始め黒部五郎岳がオレンジ色に輝いた。
今回重たい一眼カメラを担いで来たが感動のひと時を撮るとすればこの時とばかりシャッターを押す。朝日を浴びる黒部五郎岳は素晴らしい。
カールの中の巨岩のモニュメントも素晴らしい。
極端にいうとアンナプルナ内院から見るアンナプルナ主峰を彷彿とさせるイメージだ。
機会があれば積雪期の黒部五郎カールに入り写真を撮りたいと思った。
カールを過ぎてから稜線に登るまでの登りは急だ。カール壁に取り付く急登開始時間が6時22分、尾根に到着した時間が6時50分、僅か30分だが高度差170mを登ったことになる。
到着した尾根の分岐点で荷物を置いて黒部五郎岳の頂上までは10分だ。7時頂上着。この日は晴天続きの4日間の中でも一番天気が良かった。
愛機オリンパスOM-D EM-1にパノラマ撮影機能があったことを思い出し北アルプスのパノラマ写真を撮る。
一番左が薬師岳で剣・立山、中央に鷲羽岳、左端に槍ヶ岳という構図だ。
晴天続きの今回の山旅の中でもこの日が最高の天気。南に眼をやれば笠ヶ岳から乗鞍岳・御嶽が見えた。
私は「縦走派」ではないのだが、この眺望には文句なしに感動した。黒部五郎岳は深田久弥の日本百名山の一つだが、私が選ぶとしても上位に入る百名山の一つであることは間違いない。
しかし飛越新道の道は長いので頂上を去ることにした。中俣乗越を越えて赤木岳に到着したのは9時41分。
中俣乗越から赤木岳には雄大な尾根が広がる。
赤木岳から黒部源流を見ると昨年登った赤木沢源流が見えて胸が熱くなった。
私は元来「沢屋」である。高校時代に比良山系の貫井谷などの沢登りを我流で始めたのが私の原点なのだ。沢登りは大学に入って岩登りに繋がり、そして氷壁登攀に繋がり、ついにカラコルム遠征にまで至った・・・・。
だが再び原点に回帰し昨年大学の後輩k君と黒部源流の赤木沢を登ることができたことを思い出すと感慨は深い。そして今年の連休は沢に入らず黒部の源流の峰々を歩いている・・・。年を取るとはそういうことなのだろうか・・・
10時17分北ノ股岳到着。ここから4時間を越える下山道だ。飛越新道の降り始めは草原の中の道で快適だ。所々ぬかるんだ登山道を外し草原の中を歩くと快適だ。
草紅葉は冬の到来が近いことを知らせている。若くて元気ならばスキーを担ぎ上げて滑りたい斜面だ、と思う。
飛越新道の降りは長かった。降りの途中に時々登り斜面が出てきたは、降りモードに入った私を苦しめた。そしてぬかるんだ道。ここを歩くにはスパッツは必携だろう。
それでも14時30分、タクシーを予約していた時間に飛越新道入口に到着。後続組も約10分遅れで到着した。
細かいことでは色々反省点があるが、50歳を過ぎて作った山仲間でこの長いアルプス縦走を完遂したことにまず乾杯しよう!
とはいうものの実際の乾杯は平湯までお預け。飛越新道から平湯まではタクシーで約1時間、料金はサービスして貰って1.7万円程度だった。
★ ★ ★
黒部五郎岳から北側に降る場合、下山路は2つある。一つは今回利用した飛越新道で、もう一つは太郎小屋から折立に降るルートだ。一見折立ルートは長いが飛越新道の「ヌカルミ」を考えると折立ルートは悪い選択ではない。もっとも折立からのバスは早い時間に終了するので中々チョイスは難しいが。
今回は無事予定どおりの時間で4日間の縦走を終えることができたが、私は中高年にとって荷物を担いだコースタイムの設定という点で課題を残したと思っている。
「愚者は平均に迷い、賢者は自分に学ぶ」というのは、最近私が作った格言だが山登りのコースタイム設定にもまさにに該当する。
昭文社などのコースタイムをベースに計画を立てるのは実は危険である。それはコースタイムは平均に過ぎないからである。平均の前提つまり「どれ位の年齢のどれ位の体力・技量を持った人がどれ位の荷物を担いで歩くのか」ということが明らかになっていないとベンチマークとしてはあまり役に立たない。
何故なら実際に山を歩く時間は「ある年齢層のある体力・技量を持った人がある重さの荷物を担いで歩く」ペースをベースに計算する必要があるからだ。
ヒマラヤのトレッキングブック・ロンリープラネットを見るとコースタイムは4時間ー6時間などのワイドな幅で表示されている。
これが客観的な標準タイムというものだろう。このことは実は興味深い「日本人論」につながるのだが、それはいずれ別のエントリーで述べるとしたい。
さて自分のコースタイムを計算するには、カシミールのような地図ソフトを使い自分の登山速度を割り出し、それでコースタイムを計算するのが良いだろう。
特に我々のようなシニア世代になると、市販のガイドブックの標準タイムで歩き続けることができるとは限らない。
賢者の山登りは自分の登山速度を把握することから始まるのである。自分の速度を知るものは安全に歩くことができると改めて認識した次第だ。Vice Versaに愚者は標準や平均に惑うのである。それは山登りに限った話ではない。そのことも機会があれば別のエントリーで話をしたい。