金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

イエレン連銀議長、大学教育の必要性を強調

2016年12月20日 | うんちく・小ネタ

WSJによるとイエレン連銀議長は昨日(12月19日)バルティモア大学の卒業式でスピーチを行った。話の骨子は「グローバリゼーションと技術革新が進展する中で、経済がどの程度の速度で加速するのか?どのような新しい技術が登場するのか?雇用がどのような速度で持続的に拡大するのか?は分からない。よりはっきりしていることは成功は引き続き教育と結びついているということだ。教育は変化する経済への適応力を高めるからだ」ということだった。

米国では大学での教育コストがウナギ登り(原文はskyroketsing)で、奨学金ローンの残高は1兆28百億ドルに達し、自動車ローンやクレジットカード債務残高を上回っている(ニューヨーク連銀)。

そんなに高い学費を払って大学を卒業する必要があるのか?という声も聞かれるが、ニューヨーク連銀のレポートによると経済面で大卒のメリットは大きい。

過去40年間の傾向として大卒者の生涯賃金は高卒者より56%高い。また失業率でみると11月の大卒者の失業率は2.3%で高卒は4.9%だった。

またイエレン議長は大卒の無形資産価値として「より幸せでより健康でより長生きできる」ことに言及した。

教育水準と長生きの関係について少しネットで調べてみるとシラキュース大学の助教授のレポートが見つかった。http://www.populationassociation.org/wp-content/uploads/Dr.-Jennifer-Montez.pdf

それによると30歳時点における大卒レベルの余命は50歳弱で中卒レベルの余命より6.7年長い(高卒者はその間)。さらに健康寿命(余命)という点では大卒レベルが中卒レベルより10.8年長いことがグラフで示されていた。

イエレン議長のスピーチとは離れるが、なぜ高等教育を受けた人の方がそれ以外の人より余命特に健康余命が長いか?ということを推測してみた。

主な要因は「大卒者の方が稼ぎが多く、医療や健康にお金を使う余地が大きい」「健康や医療に関する情報が豊富でより健康志向が高い」「社会的なネットワークが大きく、生き甲斐などライフワークを見つけやすい」などということだろう。

イエレン議長は大学教育の重要性を指摘する一方、大学教育を受けていない人間がグローバリゼーションにどのように対応していくのかということについて懸念を示した。議長は「初等・中等教育の改善で大学への進学機会を高める」とともに「大学教育を受けていない総てのアメリカ人に経済的機会を広げる方法を見出さなければならない」と述べた。

日本では住民税非課税世帯を対象に月2~4万円の給付型奨学金(つまり返済なし)を交付する制度が来年度から先行実施される(2018年度から本格実施)というニュースが流れていた。

社会保障費が拡大する中で予算捻出は大変だが、私はこのような制度は充実させるべきだと考えている。

少子化で労働力の減少が確実な日本で経済力を維持し将来の税収や社会保障費負担を確保していくには、より生産性の高い仕事に労働力をシフトする仕組みが必要だからだ。その仕組みの根幹は高等教育にある。小林虎三郎の米百俵の話を思い出してみてはどうだろうか?

 

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預貯金も遺産分割の対象に~最高裁大法廷判断

2016年12月20日 | ライフプランニングファイル

昨日(12月19日)最高裁大法廷は「遺産分割の対象に預貯金は含まない」としてきた従来の判決を変更し、「預貯金は遺産分割の対象に含む」という判断を初めて示した。

「預貯金を遺産分割の対象に含めるかどうか」は法制審議会が今年6月にまとめた「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」でも大きな論点の一つになっていたが、最高裁の判断が法改正に大きな影響を与えることは間違いない。

中間試案では甲案・乙案が併記されていて、甲案は「預貯金は遺産分割の対象となるとしながらも、各相続人は法定相続分に応じた債権の行使(預金の払い出し)は行いうる。法定相続と異なる遺産配分が行われた時は後で調整する」というものである。乙案は「遺産分割が終了するまで預金債権の払い戻しはできない」とするものだった。

私は甲案は中途半端で実務的には問題を惹起する可能性が高いので、不可とし乙案を支持する意見を表明してきた。

新聞記事を見ただけでは今回の最高裁の判断が乙案を支持しているかどうか判然としないが、常識的に考えると「預貯金を遺産分割の対象とするのであれば、遺産分割協議終了まで個別の相続人の債権行使(預金引出し)は認めない」と考えるのが自然である。

最高裁判断に対する識者の見解というのも「この判断は実例に即したもので受け入れやすいが、一方生計費を被相続人の預貯金に頼っていた相続人が必要な現金を引き出せずに困る」というもので概ね乙案を前提とした議論である。

識者は「預貯金を引き出せなくなる人について法整備や家庭裁判所の運用で対処するべきだ」と述べているが、これらは時間と手間がかかる。

一番簡単な方法は被相続人が生計を一にする相続人(典型的には生存配偶者)に対して一定の生計費(具体的には1年分程度~遺産分割協議が整うまで)を事前に渡しておくことである。私はある時突然に渡すというのではなく、生計費の支払口座を2つ持つという感じで時間をかけて配偶者の口座にある程度資金がたまる方法を取ればよいと考えて実践している。

次に「遺言代用信託」という信託商品を利用する方法が考えられる。これは委託者(被相続人)が法定相続人の1人をあらかじめ受取人として指定しておき、相続発生時に受取人が金融機関に資金の交付を請求するという仕組みだ。

以前は信託銀行が独占的に取り扱っていたが今では都銀や地銀の一部でも取り扱っている商品だ。また独自の品ぞろえをしていない金融機関も信託銀行の代理店になるなどの方法で顧客利便性を高めている。

恐らく今日以降色々な金融機関の窓口で遺言代用信託(商品名は銀行によって異なる)に対する照会が増えるだろう。

私は遺言代用信託は良い商品だと思っているが、当然資金が固定してしまう(積極的な運用チャンスがなくなる)といったデメリットもある。自分や遺族のニーズは何か?もっと簡便でコストのかからない方法はないか?などを考え合わせながら、検討するべきだろう。

(図は日経新聞から転載)

 

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