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相続学講座(6)良い生き方の先に円満な相続がある

2015年01月15日 | パーソナルファイナンス

私は「良い生き方の先に円満な相続がある」と考えている。もっとも良い生き方をすれば、それだけで円満な相続ができるか?というとそうではないだろう。その人の家族構成や持っている資産の内容、健康状態などによって、色々なアレンジメント(準備・手配)が必要な場合がある。具体的には相続に関する知識を持ち、有効な遺言書を作成することが代表的な例として挙げられる。しかしこれらのアレンジメントにばかり気を取られて、「良い生き方」をすることを疎かにすると円満な相続を行うことは難しいと考えている。

第一相続は自分が死んでからの話だ。まず今をどう充実して生きるか?ということを疎かにして相続のことに頭を悩ませるのは、馬の前に馬車をつなぐような話だ。しかし巷間に溢れている相続本やセミナーはアレンジメントに関するものが多い。何故ならそれらが売れるからであり、アレンジメントに携わる人にとって飯のタネになるからである。しかし「良い生き方」を考えないでアレンジメントに気を取られるのは、ゴルフに例えると、狙い先(グリーン)を見定めないで、小手先のスイングに気を取られているようなものだ。たとえ良いボールを打つことができても、狙い先が悪いとかえってマイナスということもある。

さて「良い生き方」とはどんな生き方なのだろうか?実践できていないこともあるが、私は次のような生き方が良い生き方だ、と考えている。

1.ぶれないことである。少なくともブレをできるだけ小さくしようと心掛けることである。何がぶれないか?というと人生における価値観や死生観がぶれないことである。私は時々ネパールにトレッキングに出かけ、彼の地の友人やシェルパたちと人生観について話をすることがある。その時感じることは彼らは、宗教(ヒンズー教や仏教)に裏打ちされたぶれない人生観や死生観を持っているということだ。

その基本は輪廻転生reincarnationを信じていることだ。人は死ぬと必ず何か(六道のいずれか)に生まれ変わる。良いことをした人には良い転生があり、悪いことをした人には悪い転生がある。だからこの世で良いことをしようと努力する。そして寿命で死ぬことを慫慂として受け入れる。墓は作らない。死んだら火葬して、ガンジス川(の上流)ながす。何故なら魂は必ず転生するので、肉体そのものには蛇の脱け殻程度の価値しかおいていないからだ。また無用と思われる延命治療もない。

我々は「輪廻転生」観をそのまま受け入れるには、少し複雑な場所に来過ぎている。しかし彼らから学ぶことは多い。

2.柔らかく生きることである。我々を取り巻く環境はどんどん変化するし、我々自身も年とともに変化していく。過去に固執するばかりではロクなことはない。変化を受け入れる柔軟性が必要だ。根っ子の部分はしっかりしても、上の部分は柔らかく変化に対応する。いわば昆布のような姿を私はイメージしている。

3.人のためになることをすることである。仕事でもボランティア活動でも趣味でも良い。人のためになることをしようという意識を持ち続けることである。

4.生かされている、という意識を持つことである。一人で生きていると考えるのは大間違いで、自分の後ろには、地球で命が誕生してから面々とつながる命の鎖がある。遺伝子の繋がりがある。また我々に肉体には多くの微生物が住み、我々の命を助けている(時には悪さをするものもいるが)。我々は植物や動物を食べて生きている。我々の体には多くの命が入っているのだ。そう考えると私の命は私だけのものではない、という気持ちになってくるはずだ。そうすれば人間以外の生物や環境にももっと優しくなれるはずだ。

5.学び続けることである。教養を身に着けることである。1~4で述べたことを実践していくには、知識や技能が必要だ。それは学びにより習得するしかない。江戸末期の儒学者・佐藤一斎は「少(わか)くして学べば、則ち壮にして為すこと有り。壮にして学べば、則ち老いて衰えず。老にして学べば、則ち死して朽ちず」と説いている。教養を身に着ける理由は、人に奢るためではない。世界には色々な価値観を持ち、さまざまな環境の中で生きている人がいる。それらの多くの人を理解するためだ。多様性を受け入れるためなのだ。

6.健康に留意することである。時々深酒をする私にこの項目を語る資格はないかもしれないが、それでも健康を大切にしたいという気持ちはある。だが健康は目的ではない。健康は良い生き方をする手段の一つである。

以上述べたことは私が今考えている「良い生き方」のゴールである。

このような話をしても、お金にはならないから、多くの専門家はお金につながる「相続アレンジメント」の話をするのである。しかし節税などの相続アレンジメントは「手段」の話で、良い生き方とは何かということをまず考えないと、私は「手段の目的化」ということが起きるのではないか?と懸念しているのである。

 

 

 

 

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