金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

歌舞伎見物には雨が似合う

2006年05月14日 | アート・文化

歌舞伎を見に行く日はどういう訳か雨降りだなどと書くと、頻繁に歌舞伎を見ている様な誤解を与えるかもしれないが、何のことはない、今年に入って二回目である。一回目は正月に歌舞伎座で見た新春大歌舞伎、この日は桶の底が抜けたような豪雨だった。昨日(5月13日)は、しとしとと降る梅雨の様な雨の中をワイフと国立劇場に前進座75周年記念五月公演を見に行った。

Zennsinnzafinal これはワイフが入っている都民劇場の5月のプログラムから選択したものだ。さて雨の中、地下鉄半蔵門駅から約5分の道を歩いたが、地上にでるまでちょっと方角に不安があった。なにせ齢(よわい)五十五歳にして、初めて国立劇場に行くのである。しかし地上に出て和コートを着たおばさん達が沢山歩いているのを見て全く安心。というか今度はその歌舞伎見物客の余りの多さに驚く。しかも7,8割は女性である。

4時半開演だが、少し時間があったので館内を一周する。国立劇場の方が歌舞伎座よりはるかに広くてゆったりしている。1階には予約できる食堂はないが、二階には予約できる食堂があったので歌舞伎座の経験を活かして早速幕間の夕食を予約した。一人1,050円也。しかし夕食(弁当)を食べる時気が付いたが、食堂がもの凄く広いので、予約しなくても十分食べることが出来た。

さていよいよ最初の出し物「謎帯一寸徳兵衛」(なぞのおびちょっととくべえ)、原作は四ツ谷怪談で名高い鶴屋南北だ。話の筋は簡単なのだが、登場人物の関係が入り組んでいる。ごく簡単に説明すると男前で冷酷無比な浪人大島団七がかっての上役を殺害し、上役が持っている名刀を奪ってしまう。更に敵討ちをすると偽って、上役の娘(お梶)と結婚する。しかし団七が本当に好きなのは、お辰という芸者。ただお梶とお辰は瓜二つなので、お梶で埋め合わせをしたという訳だ。悪党の団七、ついには女房のお梶まで殺してしまう。

ところが、あることからお辰は殺されたお梶が自分の姉としり、亭主の一寸徳兵衛と共に親と姉の仇団七を討つというものだ。ただし最後の団七が斬られる場面は、はっきりとは演じられない。ということで何だか悪の権化の団七がやりたい放題・・・という感じなのだ。勧善懲悪なら団七も無惨な最期を遂げないといけないのだが・・・

この芝居は十数年後、鶴屋南北が書く四ツ谷怪談の先駆けということで、団七は四谷怪談の伊右衛門に当たる訳だ。昔の人は、結構好色・残虐無道・やりたい放題をしたいと深層心理では思っていた。いや無意識の中にそんな願望があった。その放埓を団七や伊右衛門が観客に替わって行ってくれるのである。観客はそれを観て、カタルシスを感じるのである。従って悪役は堂々として格好良くなくてはならないのだ。人間の心の中ないは悪いことをしてはいけない・・・・という気持ちと放埓無比の暮らしをしたいという無意識的な思いが同居している。その無意識の放埓な思いを適度に解放する上で魅力的な悪役の登場が必要・・・というのが私の理解だ。

江戸時代において歌舞伎が大衆にカタルシスを与えていたことで、凶悪犯が少なかったとまで言えば少し言い過ぎだろうか?

さて二つ目の出し物は写真を挿入した魚屋宗五郎、こちらは主人公宗五郎の妹おつたが、見初められて旗本磯辺主計之介のところに妾奉公にあがる。ところがおつたはある時自分によこしまな思いを寄せる用人岩上に手こめにされかける。結局宿直(とのい)の侍に助けられるのだが、岩上用人はかなわぬ恋の意趣ばらしと、ありもしないおつたの不義密通を旗本磯辺に讒言した。磯部はおつたに裏切られたと思い、おつたを責めて最後は手打ちにしてしまう。

これが事実なのだが、最初は宗五郎はおつたが冤罪で殺されたことを知らずに磯部に苦情を言わずに耐えようと思っている。何故なら不漁続きで困窮していた宗五郎にとって、磯部は色々な手当てを呉れていたからだ。ところが死んだ妹おつたの腰元から事実を聞いた宗五郎は、激情もだしがたく神様に願かけて断っていた酒を飲み始める。宗五郎は酒癖が悪いので、親父と共に禁酒していたのだ。しかし、飲みだすと止まらない。この酒を飲む場面が見せ場なのだ。舞台は宗五郎が、空の酒桶を振り回しながら旗本磯辺の屋敷へ怒りをぶつけに向かうところで終わる。

これまた庶民のカタルシス。権力に理不尽な目に会わされて泣き寝入りせざるを得ない人々にとって宗五郎が胸の内を代弁してくれるのである。

午後八時半、芝居が終わって外に出た。雨は嫋々と降り、国立劇場の広場の向こうには桜田堀の闇が広がっていた。その闇は何処か人が抱えるある種の暗い情念に通じる様かのごとく押し黙っていた。歌舞伎の後の雨もわるいものではないと思いつつ私達は永田町へ足を速めた。

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ゴルフ練習場で知る景気と体調

2006年05月14日 | うんちく・小ネタ

来週末から3回程ゴルフが続くので、久し振りに近くのゴルフ練習場に行ってみた。この練習場は3階建て(3階は屋上でアイアンのみ)だが、1階の練習場は20分待ちである。ここは時間帯別に小まめに料金設定を変えている。僕が行った時間(午前8時頃)はかなり安いので混んでいたのだ。それにしても最近はゴルフ練習場が混みだしてきた様だ。20年ほど昔田無に引っ越して来た頃は、バブルが始まった時でゴルフ練習場で1時間待ちなってことも良くあった。私は受付番号札を貰い、徒歩3,4分の自宅に帰り、本など読んで時間を潰してからまた練習場に行ったことがあった。そこまで行かないものの、最近のゴルフ練習場の混み方は、多少バブル期を彷彿とさせるものがある。

ただつぶさに見ると昔と違いはある。それは今はカップルで来ている若い人やアスリート的な感じの人が多いこと。つまり社用族などではなく、本当にゴルフを楽しむ人が増えてきている様なのだ。これはゴルフのプレイ代金が昔に比べて相当安くなったことでゴルファーの層が拡大したということだろう。また景気の回復がゴルフを楽しむ人を増やしていることも大きいと思う。ゴルフ練習場は景気のバロメーターなのだ。

ところで今日の練習では、私はアイアンの調子が良くなかった。体の軸がぶれているる様でボールの捉え方が一定しないのである。どうして体の軸がぶれているのかははっきりしないが、ゴールデンウイークの頃から極軽い血尿(赤い訳ではなく、少し色が濃い位)が出ている様で、昔からある腎臓結石が少し悪さをしているのかもしれない。感じる程の痛みはないが、この頃少し体が重いと感じる時があった。こういう僅かな体調の異変が影響するから、ゴルフは微妙なものだ。結石については近々お医者さんに相談してみよう。

ゴルフ練習場の混み具合が景気のバロメーターである様に、アイアンの調子は私にとって体調のバロメーターなのである。

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pay-easyで自動車税を払ってみた

2006年05月12日 | うんちく・小ネタ

私は年齢の割には新しいモノ好きだと思うことがある。新しいことがあると、何でも試してみたくなるのだ。今回は5月末期限の自動車税をpay-easyで払ってみた。

pay-easy(ペイジー)とは、日本マルチペイメント・ネットワークシステム推進協議会が推進する公共料金・税金・携帯電話利用料、インターネットショッピング利用料等をインターネットバンキング、モバイルバンキング、ATMから何時でも支払えるシステムである。

私は三井住友のOne's ダイレクトというインターネットバンキングを利用しているが、サイトに入った後「各種変更・手続き」の中に税金・各種料金の払込という項目を選択する。ここをクリックして、指示に従いながら、収納期間番号や納付番号等の番号等を入力するだけで、自分の口座(通常普通預金または当座預金)から納付金額が引き落とされ、収納機関に支払われる訳だ。支払金額や自分の氏名等を入力する必要はない。この間の所要時間は精々30秒である。

もしこの手続きを銀行の窓口で行なおうと思うと大変である。まず金額が大きい場合は預金口座から振り返る必要があるから、預金通帳や印鑑を税金等の納付書とともに持って、銀行に行く必要がある。朝一番でもない限りまず銀行では、順番待ちをする必要があるだろう。それに預金の払戻依頼書を記入しなければいけない。所要時間は短くて5分、順番待ちがあれば15分位かかるかもしれない。

コンビニでの納付はもう少し簡単だが、現金を引き出して準備しておく必要がある。これにくらべてペイジーでの支払は全く簡単である。

では、ペイジーでの支払が爆発的に増えるかというとそうでもないらしい。その理由は消費者アンケートでは消費者がsecurityに不安を感じているというのだ。確かに銀行やコンビニで支払うとその場で領収印を押してくれるので分かり易い。これに較べてペイジーで支払うと納税証明書は後日郵送されてくるそうだ。(昨日の夜自宅のパソコンで払ったばっかりなので当然まだ納税証明書は送られてこない)

初めてのことだし確かに私も支払の証明がないと万一のトラブルが不安になり、支払番号が入ったパソコン画面をプリントしておいた。

ではそれ以上にsecurityに不安があるか?と言われると、私は余り不安を感じていない。というのは、ペイジー以外に沢山の金融取引(インターネットバンキングや証券のオンライン取引、あるいはアマゾン等でのクレジットカード決済による物品の購入等)を数年にわたって行なっているが特段問題が発生したことがないからである。過去に問題がなかったから将来問題がないという訳ではないが、ペイジーだけに神経質になる理由は全くない。良し悪しは別として今日では金融だけではなく医療から何から何までパソコンとインターネットの上で走っている。インターネット万全という訳ではないが、毛嫌いしても始まらない。

ペイジー pay-easyは無論アメリカで発展してきたインターネットによる支払指図の日本版であり、漸くスタートしたばかりだ。本場のアメリカでインターネットによる公共料金等の支払の割合がどれ位になってきたか?ということは個人的に関心の高いことなのだが、はっきりしたデータは持ち合わせていない。ただここへきてかなりの勢いで増加するのではないかと見ている。その理由はシティバンク等大手銀行が本格的にネットバンキング業務を強化しだしたことだ。

私はペイジーとエディやスイカなどの電子マネーの普及が、いずれ銀行の個人業務を根本的に変えると考えている。何時それが起こるか?という時間軸を横に置き、最終形を述べると次のような形がインターネット(含むモバイル)をベースにした金融取引の姿なのだ。

  • インターネットの利用により銀行・証券会社・生命保険等色々な金融機関にある個人の資産・負債を統合的にかつ分析的に把握・閲覧できるようになる。これはアグリゲーション・サービスというもので米国では既に普及しつつある。個人の資産・負債もポートフォリオという概念で考える必要があるので、この統合レポートの様な機能が必要になってくる。この結果普通預金等銀行の通帳が廃止され、月1回の異動明細書のネットでの配信(または郵送)が一般的になる。なお預金者は何時でもインターネット経由で残高、異動明細を閲覧できる。
  • 公共料金や税金その他の支払が、総てペイジーで行なえる様になる。この時金融機関の窓口で支払を行なうと手数料を取られる。
  • 顧客は定期預金・外貨預金等各種の金融商品を総てネットで購入できるようになる。銀行は競争激化から預金金利を引き上げ、販売手数料(投資信託)を引き下げる。
  • スーパーストア、コンビニエンス・ストア、大手ディスカウントショップ等で、スイカ等の電子マネー決済が普通になる。顧客は銀行・郵便局の預貯金口座から、あるいは証券会社のMMF口座、あるいはクレジットカードからの振替をインターネット経由で行い、銀行の窓口・ATMを利用することなく小口現金を電子マネーという財布に入れることができる。
  • 航空会社のマイレッジや大型家電店のポイントが、電子マネー口座に振り返られることが一般的になる。つまり発行会社だけ利用できたポイントが一般的に利用されることで、現金値引きと全くかわらなくなり一部の店はポイント制度を廃止する。
  • 大手の銀行はインターネット・バンキングに対する顧客の不安を解消するため、securityを高めるとともに、顧客の善意・無過失の場合は、第三者による不正等を補償することを決める。これによりインターネットバンキングが飛躍的に普及する。

というのが私の予想だ。そもそもコモディティ業務(公共料金の支払等)における銀行のサービスとは「如何に顧客を待たすことなく正確で迅速な処理をおこなうか?」ということに尽きるのである。その究極の形は消費者が銀行に行かずに自分のパソコン・携帯電話で都合の良い時に素早く処理をするということに収斂するのである。

また銀行は利用チャンネル等により手数料の差別化や金利の優遇化をもっと徹底し、自分が望むチャンネルやサービスに顧客を誘導しなければならない。私は三井住友で無通帳の普通預金を使っているが、若干のポイントを貰っている。このポイントは送金手数料に充当できるので、時々手数料なしで送金するメリットを得ている訳だ。この普通預金の無通帳化ということは各銀行がもっと強力に推し進めるべきことこではないか?と私は考えている。

以上がペイジーで自動車税を払うという小さな行動から垣間見た銀行の将来像だ。

さてインターネットバンキングが普及した時、同じようなサービスを提供する銀行が今ほど必要なのか?という疑問が起きるがこれも当然の帰結かもしれない。

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景気は回復から拡大へ~ただし実感は?

2006年05月10日 | 金融

ブログのアクセス・ログを見ると、毎日の様に閲覧してくれる人がいる。こうなると短い記事でも何か書かねば・・・という一種のプレッシャーを感じる。もっともこれにより話題を探す楽しみが増すので、心地よいプレッシャーと言うべきだろう。

今日は来週発表される日銀の金融経済月報の内容を巡る日米の経済紙の観測を比較しながら、景気に関する雑感を述べよう。

日経新聞は「日銀がゼロ金利政策解除に向けて、戦術を変えながら地ならしを始めた。それは若手行員の『個人的見解』として重要なレポートを発表していることだ。日銀は早ければ五月にも景気判断を「回復」から「拡大」に変えるが、ここでも総裁は『景気は減速しながら拡大している』と慎重だ」と報じている。

ウオール・ストリート・ジャーナルはもう少し具体的に突っ込んでいる。

  • 情報筋によれば、日銀は来週発表するレポート(注 5月22日発表の金融経済月報)で景気判断を「回復」recoveryから「拡大」expansionに格上するかもしれないということだ。多くのアナリストは景気が拡大、物価が上昇、円高が過度に進まないという条件の下、日銀は、7月に短期金利を0.25%に引き上げると予測する。
  • 情報筋は「日銀は今年の初めから景気「拡大」という言葉を使うことを考えていた」「しかし量的緩和政策の下で「拡大」という言葉を使うことは難しかった」と言う。これは量的緩和と「拡大」という言葉が矛盾するからである。景気「拡大」という言葉は1991年11月以降経済月報で使われて以来、14年間使われなかった。
  • 3月に超緩和政策を止めてから、日銀は伝統的な金利ベースの政策に戻ってきた。アナリストは日銀がベンチマークのオーバーナイト金利をしばらくゼロに据え置いても、「拡大」という言葉が使われるなら、日銀が7月にも金利引き上げを開始するという思惑を強めさせると言う。
  • 金利引き上げの意思決定は、7月初めに発表される4-6月の雇用・物価統計、設備支出統計と短観にかかわっている。もしそれらの指標が、超緩和政策のため、経済が過熱状態になっていることを示唆するならば、日銀は短期金利を0.25%引き上げる見込みが高い。

どうみてもウオール・ストリート・ジャーナルの記事の方が具体的で、解説もしっかりしているが、これは記者の能力の差かあるいは日銀筋がウオール・ストリート・ジャーナルにはより詳しい事情をリークしていることによるのかは私には不明である。

さて景気拡大の個人的実感であるが、銀行グループに属する会社にいると賞与が増える訳でもなく(最近は賞与を増やしている銀行も相当あると聞くが)、フローの面で景気拡大を実感することはない。株価は高くなってきた。しかし人間は欲張りなもので「高くなった」だけでは満足しない。今後もっと高くなることに信頼がおけるかどうかということが大切なのだ。その点から言うと様々な理由から株価にはやや停滞感が募っていると思う。

物価については例えばガソリン代は高くなっている。しかしゴールデンウイークに信州など旅したが、民宿の宿代などは昔より安い位なので驚いた次第である。景気回復について地域的なばらつきが多いことは、既に多くのエコノミストが指摘するところだ。東京で土地の値段が上がりだしたから、金利を引き上げるという話は、景気回復感今だしの地方では、余り生活実感を伴う話ではない・・・と思う。

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アメリカに較べれば、日本のサラ金は可愛い

2006年05月08日 | 金融

連休中民放テレビを見ていると、サラ金の広告が目立った。連休でキャッシュピンチに陥った人をターゲットにしているのかもしれないが、与謝野金融相が言うとおり、余り好もしい印象は与えないと思っていた。ところが、今日エコノミスト誌を読んでいるとアメリカのノンバンクが、消費者から年率470%もの金利を取っているという記事に出会った。私のブログでもアメリカの消費者金融に法定上限金利はないことは既に書いているが、ここまで高い金利を取るとは思っていなかった。この記事自体は消費者金融の金利が高いことを主な問題にしているのではなく、アメリカでは預金口座を持てない人が4千万人もいることを問題にしているものだ。日米の金融システムの違いは私が継続的に調べていることなので、ちょっと内容を紹介(そして私のアーカイブスの中に蓄積)しておこう。それにしても4千万人ということは5,6人に一人の割合で銀行口座を持ってない人がいるということだ。アメリカという国は凄まじく格差のある国だと改めて思う。

  • アメリカでは少なくとも12百万人が見苦しい業界用語であるアンバンク(Unbank。銀行口座なし)の状態である。これに「不自然な移民」と「信用状況が銀行取引適格以下の人」を加えると4千万人以上が銀行取引を行なっていないと推定される。長年銀行はこの層を潜在的な顧客とみなして来なかった。それはこの貧しくかつ教育レベルの低い層にほとんど収益機会がないと銀行が考えてきたからである。
  • しかし変化が起きている。先月シティ銀行はセブンイレブンとパートナーシップを作り、セブンイレブンの店舗内のキャッシュマシーンを使って、銀行口座を持っていない個人に送金・小切手の現金化・公共料金等の支払サービスを提供すると発表した。

ここでちょっと解説が要るだろう。アメリカでは通常当座預金がないと、公共料金の支払~自分で小切手を切り、請求書とともに支払い先に郵送する~や、給料の受取り~通常小切手で支払われるので、それを自分の口座に入金し交換決済で現金化する必要がある~ができない。ところが当座預金を開設するためには、信用履歴ないしはそれを代替するもの~例えばアメリカで信用履歴がない海外からの駐在員の場合は企業の推薦状といったもの~が必要なので、銀行口座を開設できない人が発生する訳である。

  • 銀行口座を開設できない人はしばしば「代替的金融サービス提供者」(alternative finacial provider)を利用する。例えば「給料支払日貸付業者」という高利貸しがいるが、これは通常2週間(単純労働従事者の場合、給料が2週間単位で支払われることが多い)の融資を行なうが、しばしば金利は年率換算470%にも及ぶ。更に悪いことに銀行口座がないと、貯蓄を行なうことが困難で、信用履歴を積上げることもできず、合理的な金利でローンを受けることもできない。
  • シカゴ連銀とブルキングス・インスティテューションが今週発表した研究によると、銀行口座保有率が高い都市ほど、高い収入・高い雇用率と自宅保有率・低い犯罪率を示す傾向があった。
  • 米国には1977年地域再投資法(cCommunity Reinvestment Act)という法律があり、銀行に低収入地域へのサービス提供を求めているが、あまり機能していない。金融サービス改革センターという非営利団体は「銀行は地域協力というボランティアベースではなく、銀行口座を開設できない層を継続的なビジネスの対象と考える必要がある」と言う。
  • 驚くべきことに銀行はそうするかもしれない。ビサ・カードによれば、銀行口座を開設していない層は雇用者、政府、保険会社等から年間1兆ドル近くの資金を受取っている。この資金は代替的金融サービス提供者に流れている。銀行が手数料を取ってこの資金の一部でも取り込むとそれは持続的なビジネスになるだろう。またこれは法外に高い金利を支払っているアンバンクな顧客を救うことにもなる。
  • しかし貧困層にサービスを提供する正しい方法を見つけることは難しい。幾つかの銀行は顧客が無料の小切手勘定を開設するなら、無料の送金と小切手の安い現金化サービスを提供する試みを行なっている。しかしこのような方法で銀行が利益をあげるには、銀行は罰則手数料に頼る必要があるが、その様な手数料は顧客離れを起こすことになる可能性がある。

ここも解説がいるところだろう。銀行は顧客との間に最低残高維持の取り決めを行なっていて、最低預金残高が維持できないと高い手数料を取る。また顧客が振り出した小切手が残高不足で不渡りになった場合(ただしこの場合、顧客に未決済の小切手が返却されるが日本の様に不渡で銀行取引停止にはならない)に高いペナルティを取る。これが収益源になるという訳だ。

  • ジョージア州のエルバンコ銀行は、口座を持たないヒスパニックの移民をターゲットに設立された。同行は小切手の現金化を望むヒスパニックに代替的金融サービス提供者より安い手数料で現金化を行い顧客一人当たり月40ドルの手数料をあげている。
  • 他の新しいビジネスモデルはノンバンク金融機関と小売業者から起きている。一つはプリペイドカードである。例えば小売業の巨人ウオールマートは既に毎月数百万枚の小切手を現金化し、送金等のサービスを行なっているが、限定的な銀行免許を申請中である。恐らく銀行口座を保有しない米国人は今後このようなサービスが出てくるので銀行を必要としないかもしれない。

エコノミスト誌は同じ日付で「プリペイドカード」について別の記事を書いているので、これについても簡単に見ておこう。

  • 数百万人の銀行口座を持たない米国人にとって次善の策は多分プリペイドカードである。クレジット・カードの成長率はここ数年停滞しているが、プリペイドカード市場はブームになっている。ペロラス・グループという調査会社によれば、昨年1,260億ドルだったプリペイドカードの市場は、2010年までに4,700億ドルに拡大する見通しだ。
  • プリペイドカードには電話カードの様に発行者にしか通用しないシングル・ユース・カードとクレジットカードが使えるところならほぼどこでも利用できる多目的カードがある。多目的カードは銀行口座がなくても、雇用者や政府から電磁的に資金を入金することができるし、キャッシュマシーンから現金を引き出し、送金や請求書の支払を行なうことができる。
  • プリペイドカードの信奉者達は、更にプリペイドカードがクレジットカードの様な機能、例えばカードに振り込まれる給与を見合いとしたローン機能というものを持つだろうと期待している。これは銀行口座を持たない消費者が信用履歴を蓄積する上で役に立つ。
  • もっとも懐疑的な人もいる。多くのプリペイドカードは不透明な料金構造であり、銀行口座よりフィーが高い。規制もまたはっきりしない。幾つかのカードは連邦預金保険に加盟していない。またカードが盗難にあった場合、カード保有者が保護されない。

個人客への集金等過剰サービスを続けている日本から見るとアメリカの銀行は別世界の様だ。しかしこの異なった経路を辿ってきた二つの大国の個人金融業務も、インターネットバンキングやプリペイドカードというところでひょっとするとクロスするかもしれない。継続的にフォローしていきたいテーマである。

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