金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

金利は上昇し続けるのか?

2008年05月15日 | 金融

日本でも長期金利がジワリと上昇してきた。私はこの金利上昇は米国の金利高に追随して起きている面が強いと見ている。ではどうして米国で長期金利が上昇しているのか?

金利が上昇し始めたのは3月中旬で、当時1.25%だった2年もの金利は今では2.6%まで上昇している。金利が上昇した理由の一つはサブプライム危機で投資家がセーフハーバーとして米国債に資産を移していたため、米国債が買われ過ぎ利回りが低下し過ぎていたのだ。ところが3月中旬のベア・スターンズ救済劇辺りから、金融危機は峠を越したという楽観論が投資家の間に広がり、国債を売って株式などに資金をシフトするという動きが活発になった。このため債券価格が下落し、イールドが上昇しているのだ。

メリル・リンチが最近世界のファンドマネージャーに行った調査によると、8割の投資家は来年の長期金利は今年より高いと予想している。

またドル金利先物は今年の後半に連銀が金利を引き上げる可能性があることを示唆している。しかし何時連銀が金利を引き上げるか?という点については専門家の間でも意見が分かれている。

FTによるとウエルス・キャピタル・マネジメントのミューラー・上級ポートフォリオ・マネージャーは「連銀は今年は金利を引き上げないだろう」と判断している。というのは、景気を刺激するため米政府は税金の還付をおこなっているが、この還付金効果は向こう2・四半期続くと考えられる。連銀はこの「カンフル剤」が切れた後、景気が強いかどうか判断するだろうというのが、彼の判断根拠だ。

水曜日に発表された米国の4月の消費者物価指数は、ヘッドライン・インフレ率(総合インフレ率)は、先月0.2%上昇したが、ボラティリティの高い食料とエネルギーを除いたコア・インフレ率は0.1%だった。これを受けて金利上昇は一休みした。

因みに米国と日本の現在の金利水準は、3ヶ月もので米国が1.81%、日本が0.59%、10年もので米国が3.92%、日本が1.70%だ。

日本だけの資金需要や物価上昇状況を見ると、長期金利は上昇し過ぎていると私は判断している。米国で債券から株への資金シフトが一段落すると、少し金利は低下するだろう。これに伴って日本の長期金利ももう少し下がると私は判断している。

評論家はこのような状態を「今後金利は経済成長とインフレに関する思惑を巡って、月が満ち欠けするように~wax and wane~くるくる回るだろう」と述べている。もっとも月の満ち欠けは予測可能だが、金利の上下を予測することははなはだ困難であるという違いはあるが・・・・・。

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フィッチ・レポートで銀行株は固いか?

2008年05月15日 | 金融

FTによると最近格付機関のフィッチは「サブプライムとCDOに関連する損失は総額4千億ドルで、その半分は銀行が被っている。しかし世界の銀行はこの損失の8割について償却を済ませている」という報告を出した。このレポートは3月中旬のベア・スターンズ救済以降ポジティブになってきた銀行に対する裏付けして暫く株価は堅調に推移すると私は見ている。

ただしフィッチはレポートの中で「銀行の償却が終わったからといって問題全体が解決した訳ではなく、実体経済への影響を見極める必要がある」と述べている。

償却問題についていうと、邦銀大手行に関しては最近の金融庁の最大の関心事は「不良債権の償却不足」ではなくなったようだ。その理由としては邦銀大手行の信用管理システムが整備されてきたこと、不良債権の早期処分姿勢が顕著になってきたこと、不良債権にお化粧をしなくても良い程に収益力がついてきたこと・・・などが上げられるだろう。従ってサブプライム/CDO問題に楽観的なセンチメントが広がると、邦銀株にもまだ上昇余地はあると見る。

だが目先の堅調さが中期的な投資妙味を意味するかどうかは別問題だ。私は今後数年の間に国内の「弱い非製造業」は、極めて厳しい価格競争から脱落するところが続出すると考えている。幾つか例を上げると「ガソリンスタンド」「自動車ディーラー」「郊外型外食産業」などだ。特徴のない食品スーパーも苦戦するだろう。従ってこれらの業種に与信を行っている銀行も償却負担を負うことになる。少子高齢化と世界的な資源・物価高という地殻変動を予知しながら、個別銘柄を選別する良いタイミングだろうと私は考えている。

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子孫のために美田を残せない社会

2008年05月14日 | 社会・経済

「子孫のために美田を買わず」という言葉を残したのは西郷隆盛だった。この言葉の主旨は「子孫のために財産を残そうと思えば残せない訳ではないが、それでは子孫の自立心が育たないので敢えて財産を残さない」ということである。しかし今や先進国では高齢化の結果美田を残したくても残せない時代が到来している。 

最近FTが、HSBCがオックスフォード大学と共同研究したレポートのさわりを紹介していた。それによると21カ国で2万1千人にインタビュー調査を行ったところ、1割以下の人しか相続人に財産を残さないと考えていることが分かった。この考え方はOECD諸国において顕著である。何故ならOECD諸国において、高齢者が死亡する時に既に子供達は成長しており、金融面の支援を必要としないからである。

調査によると米国、欧州、英国の若い世代は政府が退職後の面倒を見るべきだと考えているが、退職年齢に近い世代は政府の援助に対する期待が少なく、個人貯蓄や企業年金スキームに頼るべきだと考えている。HSBCの経営幹部は「各国の政府はこの声を聞いて、老後資金の積立にインセンティブを与える税制優遇措置の導入が必要だ」と述べている。

一方アジアやラテン・アメリカでは、より多くの人々は家族や政府による支援を期待している。

この短い記事の中に日本の問題は論じられていなかったが、私は日本はかなり特異な位置にいると考えている。日本の年功型賃金制度の下では、退職年齢に近づく程賃金が上昇し(正確にいうと55歳当たりが賃金のピークになる制度も多いが)、若年層の賃金は相対的に低い。このため終身雇用という形で企業に依存するか、住居費の負担を減らすために親と同居する若者が多くなっている。

日本で正規雇用者と非正規雇用者の所得格差が大きいことの背景の一つとして親と同居することで、少ない生活費で暮らしていくことができる若年層が相当数存在することがあると私は考えている。しかし親が生きていて年金を貰っている間はまだ良いとしても、親が死亡した後職歴の乏しいまま中年を向かえる子供達はその後どうするのだろうか?

高齢化が進む中、今後物価が上昇し、社会保険料・税金負担が増えてくると日本でも居住用不動産を処分してより小さい住居に住み替えたり、賃貸に移る高齢者が増えてくるかもしれない。そうなると「美田」どころか小さな田畑すら子孫に残せなくなる。

暗い話であるが、そういう時代が到来しないと若者の自立心は高まらないのだろうか?

「家貧しくして孝子出で、国乱れて忠臣現る」という言葉があるが、後世の人は「年金廃れて自立心生まれる」というかもしれない。

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好きな作家が近くに住んでいた

2008年05月13日 | 本と雑誌

私が住んでいる西東京市には余り作家は住んでいないと思っていた。西東京市というよりも西武線沿線に住んでいる作家が少ないのである。数少ない作家の一人が藤沢周平氏で、かって東久留米市に住んでいたことがった。

ところが最近私の好きな中村彰彦氏が西東京市に住んでいることを同氏の「戦国時代の『裏』を読む」(PHP文庫)を読んでいて発見した。

拙宅は西東京市保谷町のうちにあり、市内には玉川上水の分水のひとつ、千川上水が流れている(「歴史作家の見るところ」より)・・・・とあるではないか。もっともこの一文のオリジナルは「週間ダイヤモンド2003年9月20日号」に掲載されているので、それ以降引越しをされていないとしての話であるが。

中村彰彦氏の小説に魅力を感じる第一の理由は「徹底した史実主義」である。司馬遼太郎は「司馬史観」の展開を急ぐ余り時として史実を逸脱することがあった。より好意的にいうと自分が書きたいことを書くために他の重要な史実を無視したところがあった。中村氏の歴史小説は私が読む限りその辺りは抑制が効いていて、出来る限り史実に即して書くという姿勢が貫かれている。

第二の理由は文章の堅牢さだ。これは氏の持って生まれた資質かあるいは東北大学文学部で研鑽を積まれた成果であるのかは私には分からない。ともあれ中村氏の堅牢な文章は「史実小説」を書くに相応しい文体である。

第三の理由は私と年齢がほぼ同じということだ。同年代にこのような作家がいることは励みになる。そして第4の理由を加えるとすれば、近いところに住んでいるということだろう。

中村彰彦氏の小説は皆読み応えがあるが、中でも私は保科正之の生涯を描いた「名君の碑」は良い本だと思っている。特に政治家には読んで貰いたい本であるし、組織で人の上に立つことがある人にも勧めたいと思っている。

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オバマ、人種よりも愛国心の問題か?

2008年05月13日 | 政治

英米の新聞・雑誌をチラチラ見ると、民主党の候補者選びは事実上オバマ候補に決まり、関心事は彼が共和党のマケイン候補の勝てるかどうかに移っている様だ。FTによると火曜日のウエスト・ヴァージニアの予備選挙ではヒラリー・クリントンがオバマに大勝する予想が立っている。この小さな州でクリントン候補が勝っても予備選挙で逆転することはないが、この州は大統領選挙で重要な意味を持っている。民主党の大統領候補は1916年以来ウエスト・ヴァージニア州で勝てなかった場合は選挙で敗退している。ところが世論調査によると、民主党はクリントン候補であるとマケイン候補に辛うじてかつことができるが、オバマ候補では20%近くの差をつけられて負けるという予測である。

ウエスト・ヴァージニア州はバイブル・ベルトという米国南西部の根本主義キリスト教が強い地帯とラストRustベルトと呼ばれる斜陽工業地帯の境界に位置する州で、オバマ候補の強い支持層である黒人や豊かな白人層が少ないところだ。白人比率は96%と高いが大学卒業者の比率は全米最低だ。ずばりというと貧しい白人が多い州だ。

FTによると「俺はずっと民主党を支持してきたが、オバマ候補はイスラム教徒というし、奥さんは無心論者がからオバマが候補者になるなら、マケインに投票する」というある選挙民の言葉を紹介している。無論オバマ候補がイスラム教徒というのはデマに過ぎないが。オバマ候補よりマケイン候補を支持するという人達の大きな理由には「コスモポリタンに見えるオバマよりも、愛国心むき出しのマケインに好感を持つ」というものがあげられる。

エコノミスト誌は「オバマ候補が大統領に選ばれるかどうかは人種の問題よりは階級の問題だ」と論じていた。この論法を用いれば、ウエスト・ヴァージニア州の貧しい白人労働者層は人種的な違和感よりも、オバマ候補の中に見えるエリート主義に反発を感じているということになる。もはや黒人=貧しい・白人=豊かなどという単純な図式で論じることはできない時代だ。図式が複雑になった場合、人々は愛国心という単純な座標軸を求めるのかもしれない。

経済問題や社会問題が先鋭化する時代には愛国心が高まる・・・いや正確にいうと愛国心を煽る人間の人気が高まる傾向があるとすれば、11月の大統領選挙は現政権の失政にも関わらず、共和党が拾う可能性もありそうだ。

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