クーデター未遂以降、内戦状態になった南スーダンですが、今では政府系のディンカ族と反政府系のヌエル族との民族闘争の様相を呈しているといいます。聞くだにつらい。
ヌエル族は「ヌアー族」ともいい、私は英国の社会人類学者エヴァンズ=プリチャード(1902―1973)の古典的名著『ヌアー族の親族と結婚』および『ヌア─族の宗教』(ともに岩波書店)で親しみを覚えたことでした。
彼らは牛を飼う牧畜民族で、若者は牛と自分とをほとんど同一視している。生活のすべては牛を中心にまわり、時間の観念さえも、たとえば「牛が草を食べに出る時」などというように、牛を基準に組み立てられている、と書かれていました。
その生活はまるで地上の楽園のように思えたものです。
報告されるエピソードにディンカの牛を盗みに行くことが紹介されていましたが、それも紛争とは程遠い、どこか牧歌的なイニシエーション儀式のように感じられました。
エヴァンズ=プリチャードがアフリカ調査を行ったのは、80年程も前のこと。その後、アフリカには近代国家制度が取り入れられ、石油資源開発や都市化などで、生活もずいぶんと変化したことでしょう。
それにしても、銃をもって大量殺戮が繰り広げられるようになるとは。文明とはいったい何なのか……暗澹たる気分にならざるを得ません。
エヴァンズ=プリチャードの著書に描かれたような、平和で牧歌的な日常を取り戻すすべはないものでしょうか。