金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

ヘッジファンド、日本で苦戦

2006年08月17日 | 株式

米国で金利引き上げに一服感が高まったことから、株式市場が好転し東京市場もこれをフォローしている。しかし小型株は今だしの感だ。ウオール・ストリート・ジャーナルに中小型株についてはまだまだ株価が重そうだと思わせる記事が出てきた。株式投資に興味のある人は頭の隅に入れておいて良い話だろう。

  • 米系資産運用会社ウイットニー社が運営する2つの日本株ヘッジファンドが苦戦している。ウイットニー・ジャパンファンド(2005年残高13億ドル)はこの7月末までに資産価値が23%下落、ウイットニー・セレクトファンド(同2億ドル)は29%下落している。
  • シンガポールのヘッジファンドパフォーマンス調査会社ユーレカヘッジ社によれば、日本株に特化しているヘッジファンド104の内、47ファンドが今年マイナス運用になっている。また42ファンドは無回答でプラスのリターンを出しているのは15ファンドだけである。今年の損失は昨年の株価急上昇の反動である。ウイットニー社の料ファンドは昨年それぞれ40%、65%というリターンを上げていた。
  • 今年は世界的に「質への逃避」が起こり、小型株や信用力の弱い会社に対して多くの投資家は神経質になっている。日本では1月のライブドア事件以来、中小型株は人気を失っている。
  • 日本のヘッジファンドの一つの問題は、株価上昇を期待して株を買い持ちするという投資信託的手法をとっていることだ。このためファンドのパフォーマンスが株式市場全体の動向に大きく影響を受けている。米国ではある会社の株を買い持ちすると、他の会社の株を売り持ちするという方法で、市場リスク(専門的にはシステマティクリスク)を回避している。
  • 日本では今年中小型株に比べ、日経平均やTOPIXはそれ程下落していない。前者は1.8%、後者は2.7%だが、TOPIX小型株は12%下落している。従って中小型株を買い持ちして、大型株を売り持ちするという手法では小型株の下落ほど大型株が下落しないので、小型株の下落をヘッジすることができていない。
  • ヘッジファンドのパフォーマンス悪化で新しい投資家は尻込みしている。また幾つかのファンドは手仕舞いして、現金を投資家に返却するかもしれない。もっともウイットニー社のような大型ファンドが解散する見込みはより少ない。

以下は書いてないことながら「小型株は流動性が乏しいので、売りポジションを作るのが困難で、大型株を空売りして売りポジションを作っていたところ、小型株の下落が大型株の下落を上回ったためヘッジが効かなかった」ということだろう。しかしこれではヘッジにはならない。これは小型株の買いポジションと大型株の売りポジションを同時に持ったという方が良いかもしれない。ヘッジとは同じリスク特性を持つ資産を反対取引することで、リスクをニュートラルにすることである。

昨今中小型株のアナリストを増やす方針で臨んでいる証券会社もあると聞くが、マーケッティング強化には時間がかかるだろう。むしろ目先ヘッジファンドから中小型株の投売りが出やすいということに着目しておく方が良いだろう。

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使うための投資信託

2006年08月17日 | うんちく・小ネタ

今日(8月17日)の日経新聞朝刊によれば、大手銀行についで地方銀行も富裕層ビジネスに力を入れ始めた。この記事によれば団塊世代の大量退職は2007年に始まり、この世代が受取る退職金の総額は45兆円になるそうだ。この点について若干コメントすれば、団塊の世代の中には関連会社転籍の時に既に退職金の一部を受取っている者もあるし、退職金が年金化されている場合もあるので45兆円の市場が誕生するとは考えない方が良いだろう。

さて今日の本題は退職金の市場のことではない。本題は退職金をどう使うのか?という話だ。それはもっと煎じ詰めると何のために生きるのか?ということになる。やりたいことをやりもせず、多少の金を残してみたところで、気が付いて見れば体は自由に動かなくなっている・・・「あーあ、元気な時にもっとあれこれやっておいたらよかった」という悔いを抱きながら死んでどうなるというのだろうか?

最近鉛筆写本でも話題になっている徒然草の中で兼好法師はこう述べている。

名利に使はれて、閑(しずや)かなる暇なく、一生を苦しむるこそ、愚かなれ。財多ければ、身を守るにまどし。(第三十八段)

(意味)名声や利益を求めてあくせく生きることはまことに愚かしいことだ。金目のものが一杯あると守ることで煩わしくなる。

注目しておくべき点は「財多ければ」という点だ。これは必要以上の財産と解したい。というのは兼好法師は世捨て人ではあるが決して貧者ではない。そこそこに財産を持ち、自立した暮らしをしていた。つまりお金に使われる生き方ではなく、お金を使う生き方をしたということだ。

さてお金を使うという観点から投資信託を選ぶとすると、払出(一部解約)や解約のしやすさということを考える必要がある。解約のしやすさには手続き面とコスト面があるが、コスト面から注意しておくことは「信託財産留保額」だ。これは解約者が払う一種のペナルティだ。つまり解約が発生するとファンド側は保有している株式等を売却して、現金を作る必要がある。この時かかる費用をファンド(=残る投資家)側だけでなく、解約者にも負担させる制度が信託財産留保額だ。この料率は0.3%~0.5%程度だが、徴収しない投資信託もある。

例えば「さわかみ投信」では50万円以下の解約については、この信託財産留保額を徴収していない。投資信託の良し悪しを比較する上で意外に軽視されているのが、信託財産留保額を含めたコスト面なのだ。

何故私がコスト面を重視するかというと、運用成果というものは所詮水物という面があるのに比べ、コストは確実に発生するからだ。投資家にとってのコストは販売業者や運用者にとっては利益になるものが多い。地方銀行が投信販売等富裕層ビジネスに力を入れるということは、消費者にとって資産運用のチャンスが広がることで良い話なのだが、銀行の目的は商品販売手数料を稼ぐことにあることはちゃんと頭に入れておきたい。その上でコストに見合う良い商品を選ぶことだ。

また余り欲をかかず、使いたい時に使い易い運用をしておくということも個人資産の運用のポイントなのだろう。兼好法師が言う様にお金とは使うものであり使われるものではないのだから。

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