金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

アジアにLBOの風が吹く

2006年08月23日 | 金融

今日は嬉しいニュースを見た。それは伊藤清京大名誉教授がガウス賞の第一回受賞者になるという話だ。確率解析に関する「伊藤の公式」については、昔オプション理論を勉強した時見たことがあった。その式の内容は理解していなかったが、伊藤教授がオプションのプライシングに貢献していたことだけは分かっていた。日本人が世界の金融工学の発展に貢献していたことを誠に誇らしく思う。

さて今金融の世界ではアジアのLBO(Leveraged Buyout)が盛んになり、投資銀行が大量に人材を投入しているということだ。これは日本の金融界にも大きな影響を与えている。まず買収に伴う大型のファイナンス案件が発生して収益機会となっている。例えばソフトバンクによるボーダフォンの買収は150億ドルのディールだが、その内約110億ドル相当の買収資金は借入で調達されている。花王がロンドンベースのスキンケア会社モルトン・ブラウンを1年前に買収した時は、ウオール・ストリートの9つの企業が20億ドルの買収資金を融通した。日本だけでもシンジケーションローンの金額は2005年に2千億ドル相当に拡大している。ローンが拡大しているのは日本だけではない。韓国ではハイトによる焼酎メーカー真露(ジンロ)の買収のため約10億ドルのシンジケーションローンが組まれた。大型買収案件はまだまだ外資の独壇場だが、その内日系証券や銀行主導の買収案件も期待したいものだ。

また人材面でも色々な動きが出ている。まず投資銀行(外資の証券会社)が企業買収等の経験者をかき集めている。このため日本の証券会社や銀行から人材が流出している。証券会社や銀行はその穴埋めに社員を繰り回し更に大量の中途採用を行なっているという状態だ。また融資サイドでも人員の投入は眼を見張るものがある。邦銀でシンジケーションローンに力を入れているみずほコーポレート銀行はここ7年間でシンジケーションローン部隊を殆どゼロから220名以上の部隊にまで拡大させている。

仕事の間口が広がることは良いことだ。今までリストラに追われ金融先端部門で活躍する機会が少なかった邦銀職員には良いチャンスである。人材が流動化することも悪いことではない。色々な経験やノウハウが伝播するので積極的に歓迎するべきことである。新しい人材が産業の活性化につながるLBOやベンチャーキャピタル投資を促進することで、日本の経済が活性化していくのだ。

大手銀行にはまさにビジネスチャンスが到来したと言うべきだろう。金融工学の源流に伊藤教授の活躍があったことを思い、外資に商売を丸ごと撮られない様に頑張って欲しいものである。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大手銀行株は買い

2006年08月23日 | 株式

この所日本株は比較的堅調に推移している。これは米国で利上げ打ち止め感が出て、米株が堅調に推移していることが大きいが、安倍内閣発足を好感している面もあると考える。株式相場というものは常に気が早く先取り先取りで動くものだ。もっとも東証株価指数が1641(22日終値)まで戻しているのは戻りピッチが早過ぎるだろう。これでは今年の年末のフェアバリューまで先取りしているかもしれない。

さて安倍政権発足となると、規制緩和促進から金融・放送・通信等が上昇する余地が高いというのが、証券会社筋の説明だ。

金融関係といえば、今日のウオール・ストリート・ジャーナル(ネット版)に三菱UFJの畔柳頭取が、増配の意向を示したという記事が出ていた。記事によると「詳細について話すことは出来ないが、我々は積極的に利益を還元することでステーク・ホールダーの信頼を勝ち取って生きたい」と同頭取は言う。公的資金を既に返済したので今後は利益を投資家、顧客、その他のステークホールダーに還元していきたいというのが主旨だ。

邦銀の配当性向はきわめて低い。前期の三菱UFJの配当性向は5.9%に過ぎないが、世界的な意味でライバルのシティの配当性向は約4割だし、金融機関以外の日本の会社の配当性向は約2割だ。三菱UFJの配当利回りは0.45%だが、仮に同行が配当を3倍に引き上げるとすると、これは配当利回りで買える水準になるだろう。

金融業界全般に言えば今後の課題と収益チャンスは次の点にある。

一つは地方金融の問題だ。貸出金を思うように伸ばせないので、公的資金負担の重い地銀を中心に今後再編が進むと見ておいて良いだろう。次は消費者金融の問題だ。私は何らかの形でこの分野に大手銀行がもっと直接的なコミットをしていく必要性と可能性があると考えている。その次は富裕層や今後退職金を受取る団塊の世代を相手にした、資産運用ビジネスだ。最後は円金利の上昇問題だ。三菱UFJの様な大手銀行には、決済性資金として大量の無利息資金が滞留している。ゼロ金利時代はこれは重荷だったが、金利が上昇してくるとこの無利息資金は大きな収益源になる。この様な課題や収益チャンスは地方銀行や信託銀行より大手行に特に有利に働くと私は見ている。

従って大手銀行特に三菱UFJの株には今後上昇余地がある思っている。ただし安倍内閣ご祝儀相場が剥げる局面では銀行株も一端はコレクションされるだろう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする