昨日(9月1日土曜日)ワイフと新宿の伊勢丹に行く。主目的は母の誕生日プレゼントの購入だ。86歳になる母の周りにはモノは溢れているのでプレゼントには頭を悩ます。使えば減るものが良いということで食べ物でも贈ろうか?と地下一階の食料品売り場をうろついてみたが、気に入るものが見つからず結局地下二階のボディショップで地中海産の入浴剤を買って贈ることにした。食料品売り場ではワインショップに立ち寄った。スレンダーでハキハキした女性の店員さんが「ワインを飲む時のお食事はどのようなものですか?」と聞いてきたので「今日は鳥のから揚げとズッキーニのオリーブオイル炒め・・だから赤かな?」と返事をすると、カヴァもしゃきっとしていてフライやてんぷらに合いますよと私達をスペインワインコーナーに連れて行った。
カヴァはスペイン産のスパークリング・ワインだ。そこでグランバロン・カヴァ・セコを一本買った。(2千円弱、3年もので辛口)
ところで伊勢丹というと来年4月には三越と経営統合を行うことが8月下旬に正式に発表されている。日本の百貨店業界では合従連衡の動きが続いているが、これは業界の規模が縮小する中各社が生き残りを模索しているからだ。これに関して二つの記事からデータを紹介しておこう。まず日経新聞(9月2日)のポイント。
- 百貨店の店舗数は1999年末の311店から2006年末の277店に減少が続いている。店舗が大き減少した原因は2000年のそごうの倒産。
- 全国の百貨店の売上高は91年にピークの9兆7千百億円をつけた。06年は7兆7千7百億円に減少。
エコノミスト誌はDemise of the depato(百貨店の消滅)という題でもう少し突っ込んだ分析を行っている。Depatoは「デパート」、いうまでもなくdepartment storesのことだが和製英語として投資銀行マンなどの間では通じるのだろうか?
- デパートは近代化のシンボルである。20世紀始めに三越百貨店は日本で初めてセントラルヒーティングとエスカレーターを導入した。しかしそれは今日では古風で堅苦しいことで知られている。
- 三越は6年連続で赤字を出している。百貨店の底地の値段は今では会社の価値を上回ると考えられている。
- 三越と伊勢丹の経営統合により、三越は規模は小さいが利益で勝る伊勢丹から新しい巧妙なやり方を学ぶことになるだろう。
この「巧妙なやり方」は原文ではtricksトリックだ。トリックというと人をだますたくらみという悪意で使われることが多いと思うが、この場合悪意を含んでいるかどうか・・・・この辺りが英語の難しいところだ。商売のこつをtrick of tradeともいうがknack of tradeという方が一般的らしい。
- 百貨店の経営統合により納入業者に対して購買交渉力が高まる。また広範なリストラが可能になる。百貨店の各店舗はほとんど独立国のように運営されているが、合併は中央集権化の良い口実になる。
- 多くの大手百貨店は近年正社員を減らし、臨時スタッフで対応している。しかし日本の百貨店はパパママストアについで生産性が低く、米国の同業に比べて25%効率性で劣る。
余談だがパパママストアは英語ではmom-and pop outfits、momはお母さんだがpopはポピュラーのpopで大衆だろう。
- 賢明な情報技術の導入で物流を改善し、購入を現代化することがこの業界では遅れている。
- 百貨店業界ではIT投資と古くなった店舗のリノベーションが必要だ。これには資金が必要だが、百貨店は資金不足なので合併により規模を拡大することが必要である。
- かって家族で週末に百貨店に行くことは、文化的な遠足であった。しかし現在行われている経営統合の後に革新的なオーバーホールが行われないと百貨店はすぐに古臭いものになってしまう。
年をとると余りものを買わなくなるので、少子高齢化が進む中で百貨店業界は逆風の中にいる。対策はあるのか? 一つの対策は「なくならないモノ」ではなく「使えばなくなるモノ」を売ることにヒントがあるのではないだろうか?私が昨日新宿伊勢丹の地下を歩いて感じたことはそのことだ。食料品やワインは食べて飲めばなくなる。良い食材とそれに合う良いワインやお酒を販売すれば消費者の需要を創造することができる。入浴剤などのボディケア商品も使うとなくなるし、豊かな生活を提案すると新たに需要を喚起することができる。それには顧客の深層心理の中にある欲望を引き出すことができるプロフェッショナルなスタッフをそろえることだ。伊勢丹の職員の中には何人かそのような人がいたことは確かだ。