ファイナンシャルタイムズは珍しく不正確な記事を書いていた。それは「ドルLiborが2001年以来の高い水準にあるが、これは銀行間の資金の貸借に対する不安から金利が上がっている」というくだりだ。金利の絶対水準は中央銀行の金利政策で変動し、銀行間の資金需給の影響は極めて限界的である。金利が高いかどうかが信頼の基準ではない。もし金利が低いことが信頼の基準なら日本の銀行は世界一信頼が高いことになる。
銀行間の与信不安の度合いを測る指標はTed spreadと呼ばれる指標だ。これは米国の短期国債(3ヶ月)先物とユーロドル3ヶ月先物の差である。これが大きいと銀行間の信用リスクが国債に比べて大きいと市場が判断しているといえる。
Ted spread の代用品として手元のファイナンシャルタイムズの現物取引データを見てみた。今回のサブプライム・ショックが起きた8月10日の米国国債利回りは4.42%でユーロドルLiborは5.575%だったのでイールド格差は1.155%だったが、9月3日には前者が5.01%後者は5.668%で格差は0.658%に縮んでいる。
この指標を見る限り民間信用の信用力は「事件勃発時」より回復してきていると見える。従ってこの記事はわざわざ引用する程ではないのだが、冒頭部分が面白かったのでちょっと引かせてもらう。
JPモルガン財閥の創始者ピアモント・モルガンは「商業与信は第一に資金やモノをベースにするのですか?」と質問された時「いいえ、違います。第一の用件は品格です。それはお金では買えません」
FTは記事の後段で「今銀行間には信頼が欠如している。お互いに相手が大きな含み損を抱えているのではないか?その結果貸借の決済に問題がないか?と疑心暗鬼になっているが、信頼の回復が必要だ」と言っている。
ところでこのピアモント・モルガンの甥にジョージ・モルガンという人物がいた。彼は祇園の名妓お雪(本名加藤 ユキ)を4万円(現在では数億円の価値)という大金を払って身請けをして妻にしたことで有名だ。これがモルガンお雪である。お雪には当時京都大学在学の恋人がいたが、この話で破局になったという。モルガンとお雪が結婚したのは1904年(明治37年)その11年後にモルガンは病没。お雪は81歳まで生きて1963年京都で病没した。
ジョージ・モルガンはお金でお雪の愛と幸せを買えたのだろうか?お雪の一生は幸せだったのだろうか?お雪は日本に帰った後「カネに目がくらんだ女」と世間から冷たい目で見られたらしい。
やはりお金で買えるものには限界があったということだろうか?