日本のマスコミや政治家の国際問題に関する欠点は断片的事実(間違いも多いが)を国民に語ることはあっても、国際情勢の全体像と日本の利害を明確に示せないことである。例えば日本の外交上重要な「米国が北朝鮮との和解を急速に進めている」「テロ対策特別措置法の延期を求め、自衛艦の給油活動の継続を求めている」という問題がイラク問題と緊密に絡んでいることを国民に示していない。
ポイントは米国がイラクで抱える問題の大きさであるが、そのことを論じる前に最近のファイナンシャルタイムズの日本・北朝鮮の外交交渉に関する記事の紹介から始めよう。
- 先般のウランバートルでの両国の会談が始まる前に、東京は北朝鮮に緊急援助を送ることを考えるかもしれないと言った。加えて東京は日本の朝鮮半島の植民地的占領に対する賠償について討議することに同意するかもしれないと述べた。
- これは「現金」を意味する。1965年の日韓国交正常化に際してソウルは賠償金として3億ドルを受け取った。これは現在の貨幣価値で60億ドルから100億ドルに相当する。
- 安全保障問題の専門家である東京テンプル大学のデュアリックDujarric教授は日本が軟化しているのは二つの理由があると述べた。一つは北朝鮮の核問題の解決で迅速な動きを示す米国の動きにより日本が孤立する懸念である。二番目は北朝鮮の拉致問題で政治的キャリアを確立した安倍首相が参院選で大敗して影響力を弱めていることである。このため官僚達が北朝鮮との妥協点を求めだしたことである。これは米国が日本から離れると日本が孤立するという懸念から出ている。
この様に見てくると朝鮮と日本の関係というのは「政治家レベルの強硬意見と現実的対応を迫られ小細工を弄する官僚」というパターンを繰り返す歴史という一面が見える。官僚レベルで小細工をした例の最たるものは文禄の役の後、日本・明双方の官僚がお互いに相手が降伏したと偽りの報告をして終戦を図ろうとしたことである。ここで官僚を責めるつもりはない。責められるべきは無益の侵略戦争を起こした秀吉である。小細工という意味では朝鮮通信使の応対に当たった対馬藩も幕府・朝鮮双方のはざまで度々苦労をした様である。
話が横道にそれた。本題に戻すと前出したデュアリック教授が次のようなことを言っている。
- 9・11事件そしてイラク戦争後米国は、軍事力を極東から中東にシフトしている。それは不幸なことながらイラクに多くの軍事力を必要とし、規模は小さいもののアフガニスタンにも軍隊を展開しなければならない。米国の負担はきわめて重く、北朝鮮問題を早期に解決する必要がある。
以下は私の解釈だが、大統領選挙を控えてブッシュ大統領は「外交・軍事面の成果」を必要としている。そのためには極東を安定化させイラク・アフガニスタン問題でも解決の糸口をつけなければならない。アフガニスタン復興には日本の協力が必要であり、インド洋での自衛艦の給油活動が必要となるわけだ。
ここで米国の基本的な戦略を理解しておく必要がある。それは産油地域であるアラビア沿岸を安定させ、石油の安定的な供給源を確保するとともに、その運送経路であるインド洋からマラッカ海峡・東シナ海のベルト地帯の安全を確保することである。そしてこれは日本の経済権益とも一致するところである。
北朝鮮による拉致問題を軽視する訳ではないが、それに固執して北朝鮮問題の解決に米国や韓国と足並みをそろえないと日本は孤立する恐れが出てきた。