サブプライムローン問題に端を発して、格付機関が批判されたり監督官庁からヒヤリングを受けていることは周知のとおりだが、『格付』の意味というものは意外に知られていない。FTが上手くまとめた記事を書いている(書き手は固定利付債ブローカーの役員)のでポイントを見ておこう。
- 不幸なことに多くの投資家と大部分の評論家は格付が何を意味するのか?格付機関はどのように活動しているのか?ということを理解していないことが明らかになってきた。
- 基本的なことの第一は「格付は信用リスクを反映する」ということだ。信用リスクとは債務を返済する能力と意思のことである。格付は対象債務の流動性、潜在的価値、ボラティリティを含んでいない。従って格付だけをベースにした投資は誤りである。
流動性とは換金性である。たとえ高格付の債券でも発行総額が少ないと流動性は低く換金リスクが伴う。
- 大部分の人はAAA/Aaaは絶対安全、BBB/Baaは多少のリスクを示し、CCC/Caaはトラブルを意味すると考えるが、実際はもっと複雑である。最初に信用リスクを測定する方法は沢山ある。次のS&Pとムーディーズでは信用リスクを測定するのに異なったアプローチを取っている。
S&PのBBBとムーディーズのBaaは同格だと言う方は、金融マンの間でもかなり一般的だが正解には二大格付機関で定義が異なる。従って二大格付機関の格付が一致するとは限らないのだが、実際には相関関係はきわめて高い。不思議なことだが。
- 更に混乱を招くことはS&Pの格付は債務不履行を起こす可能性を基準にしている。例えばBBBの格付を持つ10年のCDOは7.1%の債務不履行の可能性を示している。一方ムーディーズの格付は期待損失を反映している。期待損失とは「債務不履行の可能性に実損率を乗じたもの」である。
- これらの観察から我々はどんな結論をることができるか?対象クレジットの格付自体は意味がなく、鍵となるのは分析の背後にある一連の仮定である。幾つかの仮定は健全であるが、それ以外のものは健全性が少ない。従って格付を額面どおり受け取ることは賢明なことではない。
- 最後の重要な点は格付機関が恐らく規制当局が意図する以上の力を持っていることである。債券が投資適格であるかどうかは決定的に重要である。非投資適格銘柄になるとあるタイプの投資家は強制的に売却する必要がでるからだ。
FTは今後格付機関に関する監督強化が検討される時次のようなことがトピックになると述べている。
- 固定利付債の市場はその性格からしてグローバルなものである。従って誰が格付機関を監督するのか?
- 規制当局は何を監督するのか?アナリストが採用する格付手法を規制するのか?
- 現在の時点で格付をベースにして必要資本額を決めることが安全なのか?
- 規制当局が信用リスクを測定する共通の基準を定めて、格付機関はその物差に従って自分の格付を位置付けるべきなのか?
最後に「格付機関は必要な役割を演じており、政府機関がそれに置き換わることがあればそれは悲劇だろう」と結論付けている。
これを読んで分かることは「格付を正しく使うには相当な金融知識と統計学の造詣が必要だ」「格付は投資意思決定の一つの重要な参考指標だがそれが総てではない」「格付機関を規制することはそう簡単な作業ではないし、それがプラスかマイナスかも即断しにくい」ということだろう。
10年位前つまり邦銀がムーディーズの格付に振り回され、資金吸収等に苦労した時はこのような整然とした格付に関する問題点の指摘を見ることはなかった。あの頃はムーディーズが教祖か絶対君主の様な力を振るっていて、格付の意味を深く理解しない人達がAとかBとかの記号だけを見て現金を抱えて銀行の窓口から窓口へ走り回っていたことを思い出す。
最近はムーディーズさんの力もかなり落ちた様だが、それはそれで多少の寂しさを感じない訳ではない。