金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

格付の意味あるいはムーディーズの昔日

2007年09月12日 | 金融

サブプライムローン問題に端を発して、格付機関が批判されたり監督官庁からヒヤリングを受けていることは周知のとおりだが、『格付』の意味というものは意外に知られていない。FTが上手くまとめた記事を書いている(書き手は固定利付債ブローカーの役員)のでポイントを見ておこう。

  • 不幸なことに多くの投資家と大部分の評論家は格付が何を意味するのか?格付機関はどのように活動しているのか?ということを理解していないことが明らかになってきた。
  • 基本的なことの第一は「格付は信用リスクを反映する」ということだ。信用リスクとは債務を返済する能力と意思のことである。格付は対象債務の流動性、潜在的価値、ボラティリティを含んでいない。従って格付だけをベースにした投資は誤りである。

流動性とは換金性である。たとえ高格付の債券でも発行総額が少ないと流動性は低く換金リスクが伴う。

  • 大部分の人はAAA/Aaaは絶対安全、BBB/Baaは多少のリスクを示し、CCC/Caaはトラブルを意味すると考えるが、実際はもっと複雑である。最初に信用リスクを測定する方法は沢山ある。次のS&Pとムーディーズでは信用リスクを測定するのに異なったアプローチを取っている。

S&PのBBBとムーディーズのBaaは同格だと言う方は、金融マンの間でもかなり一般的だが正解には二大格付機関で定義が異なる。従って二大格付機関の格付が一致するとは限らないのだが、実際には相関関係はきわめて高い。不思議なことだが。

  • 更に混乱を招くことはS&Pの格付は債務不履行を起こす可能性を基準にしている。例えばBBBの格付を持つ10年のCDOは7.1%の債務不履行の可能性を示している。一方ムーディーズの格付は期待損失を反映している。期待損失とは「債務不履行の可能性に実損率を乗じたもの」である。
  • これらの観察から我々はどんな結論をることができるか?対象クレジットの格付自体は意味がなく、鍵となるのは分析の背後にある一連の仮定である。幾つかの仮定は健全であるが、それ以外のものは健全性が少ない。従って格付を額面どおり受け取ることは賢明なことではない。
  • 最後の重要な点は格付機関が恐らく規制当局が意図する以上の力を持っていることである。債券が投資適格であるかどうかは決定的に重要である。非投資適格銘柄になるとあるタイプの投資家は強制的に売却する必要がでるからだ。

FTは今後格付機関に関する監督強化が検討される時次のようなことがトピックになると述べている。

  • 固定利付債の市場はその性格からしてグローバルなものである。従って誰が格付機関を監督するのか?
  • 規制当局は何を監督するのか?アナリストが採用する格付手法を規制するのか?
  • 現在の時点で格付をベースにして必要資本額を決めることが安全なのか?
  • 規制当局が信用リスクを測定する共通の基準を定めて、格付機関はその物差に従って自分の格付を位置付けるべきなのか?

最後に「格付機関は必要な役割を演じており、政府機関がそれに置き換わることがあればそれは悲劇だろう」と結論付けている。

これを読んで分かることは「格付を正しく使うには相当な金融知識と統計学の造詣が必要だ」「格付は投資意思決定の一つの重要な参考指標だがそれが総てではない」「格付機関を規制することはそう簡単な作業ではないし、それがプラスかマイナスかも即断しにくい」ということだろう。

10年位前つまり邦銀がムーディーズの格付に振り回され、資金吸収等に苦労した時はこのような整然とした格付に関する問題点の指摘を見ることはなかった。あの頃はムーディーズが教祖か絶対君主の様な力を振るっていて、格付の意味を深く理解しない人達がAとかBとかの記号だけを見て現金を抱えて銀行の窓口から窓口へ走り回っていたことを思い出す。

最近はムーディーズさんの力もかなり落ちた様だが、それはそれで多少の寂しさを感じない訳ではない。

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安倍辞任で国民と世界の信頼を失う

2007年09月12日 | 政治

今日の昼に安倍首相が突然辞任するというニュースが入った。少し前にブログで「テロ活動特別措置法に政治生命をかける」と宣言したのは背水の陣の表明だが危険だと論じた。しかし敵が攻めてくる前に自ら逃亡する様では背水の陣も何もあったものではない。富士川の戦いで水鳥の音に驚いて逃げた平家の軍隊並みの話である。

安倍首相の辞任の背景には「週刊現代」が脱税疑惑で追求していたことがあるというニュースを見た。健康問題云々というテロップも流れていた。理由は何であれ国会で所信表明演説をしたり、海外で「自衛艦の派遣継続に職を賭す」などと発言してその舌の根が乾かぬ内に辞任するというのはほとんど前代未聞だろう。

「自爆テロだ」と言っていた霞ヶ関の官僚がいるが、テロリストが怒るであろう。テロリストを擁護する訳ではないが、テロリストには持続する意思がある。

リーダーにはこの「持続する意思」が必要だ。塩野七生の孫引きだがイタリアの教科書にはジュリアス・シーザーを評して「持続する意思・肉体の健全・類まれなる寛容・知性・説得力、これらを兼ね備えたものは古来シーザーしかいない」といってリーダーの徳目を上げている。

安倍首相はこれらの内、幾つの徳目を持っていたろうか?持続する意思の欠如は国民の信頼を深く裏切るとともに、国際社会での日本人政治家の面目と信頼を失うものではないだろうか?

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ポールソン、市場の混乱の長期化を予測

2007年09月12日 | 金融

FTによると米国のポールソン財務長官は11日、今回の信用危機は過去20年間の金融ショックより回復に時間を要するだろうと述べた。以下そのポイント。

  • 今回の市場の混乱は90年代のアジア通貨危機、ロシアのデフォルトや80年代のラテンアメリカの債務危機より長引くだろう。
  • 従来の金融危機よりも混乱が長引く第一の理由はグローバル化が進んでいるため、米国のモーゲージが小刻みにされ世界中にばら撒かれているからである。第二に複雑さのレベルの問題である。

米国の当局によるとサブプライム住宅ローンの評価については、多くのローンの金利が高いレートにリセットされる2年後までかかるかかる可能性があると述べた。

実際に現場で過去の金融危機を経験した元ゴールドマンザックスの会長ポールソン氏の発言だけに、この予想に同感する人は多いのではないだうか?

人は往々にして安心感を与えるため、問題の大きさを小さく評価する場合がある。例えば参院選の前に自民党が言った年金記録不備の整備に要する時間だ。為政者が問題を過小に評価して国民に示して、解決が予定通り進まなかった場合一度に信頼を失う。問題は小出しにしてはいけないのである。

その点今回のポールソン氏の発言は、問題の深さを直視していて信頼が置けそうであると感じだ。

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