早く帰った秋の夜は「俳句百選」をえんぴつでなぞり書きをして時間を潰す。効用は幾つかある。まずお酒を少し控えるので体に良い。次に日頃パソコンばかり叩いているので、どんどん字が下手になるがこれを少しでも直すことができる。最後に著名な俳人の句を味わうことができる。
歩きつづける彼岸花咲きつづける 種田山頭火
われにつきゐしサタン離れぬ曼珠沙華 杉田久女
自分の中に棲む悪魔がはなれないという句だ。何かストーリーがありそうだが杉田久女という人のことは知らないので良く分からない。
良く分からないといえば詠み人の名前を忘れたが、こんな短歌があった。
風を受けきりきり舞いの曼珠沙華 抱きたさは時に合いたさを越ゆ
この短歌の裏にあるストーリーも知らない。しかし暗い木立の中で情念のように咲くこの花には何かストーリーを呼び起こす力があるようだ。もっとも受け手にその感性がる場合だが。私は精々曼珠沙華の写真を撮り、先人の俳句をなぞる程度である・・・・と虫の音を聞く夜である。
ススキの句もあった。
すすきのひかりさえぎるものなし 種田山頭火
写真は昨年の秋丹沢の大山から新宿方面を見たところだ。まさにさえぎるものなしである。それにしても山頭火の俳句は「ふっ」と口から出たままのようだ。それが句になっている。私には上手いか下手か判定する技量はないがもし今度晩秋の山道でススキを見たときこの句がふっと出るならそれは「良い句」だと思いたいと考えている。